第8話 駆け引きの祭典 8
丘の空は、星で、満ちていた。
雲はなく、煌々と、星々が、輝いていた。
時折、風が、吹いていった。
丘の遥か下方に、夜の市街地が、見えた。
街の明かりが、小さく、浮かんでいた。
丘は、空間の歪みによって、一時的に、姿が、現れている存在である。
下方では、断続的に、空が、歪んでいた。
丘は、静かで、風が吹いて、草が、囁くような音を、立てていた。
西洋の中世の宮殿を想起させる、巨大な建物が、そびえ立っていた。
不思議な、建物である。
特筆すべきは、アーチも、柱も、床も、壁も、宮殿の全てが、半透明なのである。
宮殿は、巨大なガラス細工の様相を、呈していた。
柱と壁は、星空を写し、床も、星空で、満ちていた。
宮殿は、星空の中に、あった。
"天宮殿"は、星が瞬く夜空の中に、あった。
雲の無い、一面の星空である。
"爛"を統べる頂たる"天宮殿"は、現実空間とは、その存在を異にする、虚無の空に浮かぶ、建造物である。
瀟洒な噴水が設けられた、真っすぐに伸びた庭園が、あった。
庭園の草木は、良く整えられていた。
星空に囲まれた"天宮殿"は、星々の光に、包まれるように、青白く、照らされていて、幻想的な趣さえあった。
庭園の先には、ホールのような空間が、広がっていた。
ホールからは、何本かの回廊が、伸びている。
高い天井が、印象的である。
丸くくり抜かれた天井には、複雑な文様が施されたステンドグラスが、張られていた。
壁にかけられた絵画に囲まれたホールを抜けた先に、円形の室内庭園が、設けられている。
室内庭園が、"円卓会議"の会場である。
"爛の王"の中でも、とりわけ力の有る、十二の勢力が集う、"円卓会議"が開かれる空間には、大きな円卓が、あった。
円卓には、十三の席が、設けられていた。
一時の方向から十一時の方向まで、定間隔で、瀟洒かつ豪奢な椅子が、一脚ずつ、配されている。
十二時の方向のみ、二脚の椅子が、あった。
"円卓会議"の進行役は、白銀の髪の少女、"爛""消失の才媛"リゼ・ルノーである。
リゼの宣言があったように、今回の会議では、第十一座"爛の王""虚影の指揮者"鷲宮イクト(わしみやいくと)が座していた、第十一座は、空席となっている。
四時の方向の席に、座っていた、深い青のジュストコールに、身を包んだ、人物が、ゆっくりと、挙手した。
「何でしょう?第四座"爛の王""碧の聖剣"シシリィ・ドア様」
と、リゼに言われた、シシリィは、
「第十一座殿は、かの"月詠みの巫女"に、敗れたのかな?」
と、言って、
「当代の"月詠みの巫女"は、確か、御月七色という少女だったかな。中々の手練れ(てだれ)とも、それに、"守護者"である倉嶋綺亜という少女も、共闘していると、聞いているけれども、どうなのだろう?」
と、続けた。




