第7話 昼下がりの少女たち 2
ブロンドの髪の少女は、綺亜である。
「お、おはよう」
と、綺亜が、微笑んで、挨拶した。
(あれっ)
と、彼方は、思った。
綺亜の態度が、どことなく、ぎこちないのである。
心なしか、綺亜は、顔も、赤いように、思えた。
(気のせいかな)
と、彼方は、思い直して、
「おはよう、綺亜」
と、言った。
七色も、彼方と同じことを思ったようで、綺亜の顔を、斜め右前から、覗き込むようにして、
「どうかしましたか?」
と、綺亜に、聞いた。
綺亜は、張った声で、
「何が?」
と、聞いた。
「いえ、少し、顔が赤いかなと思いました」
と、七色が、答えた。
綺亜は、彼方と七色の二人の視線を受けて、気まずそうに、
「な、何でも、ないわよ」
と、言った。
七色は、そうですか、と、言って、それ以上は、詮索しなかった。
「綺亜さんにも、良いタイミングで、お会いできました」
と、七色が、言った。
「今度の土曜日なのですが、ここに、行きませんか?」
と、言った、七色は、彼方と綺亜に、パンフレットを、差し出した。
ピンク色の基調の、可愛らしい感じの、パンフレットである。
「……ストロベリー・スイーツ・ストリート?」
と、彼方が、パンフレットの表紙を、読み上げた。
七色は、頷いた。
パンフレットによると、ストロベリー・スイーツ・ストリートとは、イベントの呼称である。
イベントは、桶野川市から、電車で、一時間半程の場所に位置する、F市にある、商業施設の一画で、開催される。
商業施設は、いわゆるショッピングモールで、テレビやネットでも、偶に見かける、有名どころだった。
「名前は、聞くけれども、行ったことはないな」
と、彼方が、言った。
「私も、ないわ」
と、綺亜が、言った。
「ストロベリーなストリートが、今年も、やってくる!皆で、イチゴを、楽しもう!イベント限定イチゴスイーツが、大集合!イチゴ尽くしのイベントです!」
と、七色が、感嘆符の入った文面を、棒読みで、読み上げた。
七色は、一呼吸で読み上げると、
「……感情を込めて、読んでみました」
と、事務的に、言った。
綺亜は、肩をすくめて、
「……うん。良く、感情が、のっていたと、思うわ」
「ありがとうございます」
と、七色が、言った。
「イチゴは、冬に、人気だからね。ケーキとの相性も、抜群だし」
と、彼方が、言うと、七色は、目を輝かせて、
「その通りです。イチゴのショートケーキ、イチゴタルト、イチゴパフェ等の洋菓子、イチゴ大福等の和菓子、練乳、ヨーグルトをかけたり、イチゴジャム、イチゴジュース等、食べ方の豊富さは、折り紙つきです。しかも、どれも、美味しいです」
と、言った。
綺亜は、苦笑して、
(こだわる時は、とことんこだわるのよね、七色は……私自身、この子の雰囲気に、飲まれそうだわ)
と、思った。
「品種も、充実しています。とちおとめ、えちごひめ、やよいひめ、あきひめ、あまおう、アスカルビー、サマープリンセス、ペチカプライム、ダイアモンドベリー……」
と、七色が、読み上げているのを、穏やかに制止するように、綺亜は、
「毎年開催されているのね。ええと……今回、初出店となる三店舗含め、伝統ある老舗から新感覚スイーツのお店まで、過去最多三十店舗が、揃い踏み。ここでしか味わえない、イベント限定のイチゴのスイーツが、目白押し!」
と、パンフレットの内容を、読み上げた。
七色は、チケットを、トランプのカードのように、広げてみせた。
「スイーツ交換チケットが、六枚あります。一枚で、一つのスイーツが、楽しめます」
と、七色が、言って、
「母が、知り合いの方に頼まれて、一日だけ、販売員のバイトを、やるんです。その関係で、チケットを、六枚もらったので、三人で、どうかなと、思ったのです」
と、続けた。
「さすが、佳苗さん」
と、彼方が、感心しながら、言った。
「ダ〇〇〇スの攻略の時間が、削られる、と嘆いていました。捕鯨ルートのスコアの研究も、まだまだなのに、とも言っていました。私には、何のことかは、わかりませんが」
と、七色は、言った。
彼方は、苦笑して、
「さすが、佳苗さん……ぶれないな……」
「ですが、バイトをやる以上、全身全霊で臨む、と、言っていました」
「そこも、佳苗さんらしい……」
綺亜は、彼方の七色のやり取りを、黙って、聞いていた。
「……」
綺亜の瞳が、寂しげに、揺らいだ。
どうでしょうか、と、七色が、改めて、彼方と綺亜に、聞いた。
綺亜と顔を見合わせた、彼方は、笑って、
「今度の土曜日なら、特に、予定もないしね。喜んで、行かせてもらうよ」
と、言った。
綺亜は、微笑んで、
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
と、言った。
「では、土曜日の十時に、桶野川駅で、待ち合わせましょう。それで、良いですか?」
七色の言葉に、彼方と綺亜は、頷いた。




