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第11話 組織のあり方 2

(真っ暗で、何も見えない)


 と、能登は、霞みがかった意識の中、思った。


 暗闇に慣れるまで、敵が悠長に待ってくれるとも思えない。


 首を鋭利なもので切り付けられていて、出血が酷い。


 血が流れていくのがとまらず、出血に追随(ついずい)するように、意識ももっていかれそうだった。


 人の体内には、およそ体重の約7~8%の血液がある。


 例えば、体重60キログラムの人間ならば、約5リットルとなる。


 この体内の血液の20%が、急速に失われると、出血性ショックという重い状態になる。


(……何も、考えられなくりそう)


 すでに、能登の表情はぼんやりとしていて、目はうつろだった。


 皮膚は青白く冷たくなり、冷汗が流れていた。


 能登は、息をついた。


 唇は、白い。


 能登は、魔術を発動させていた。


 具現化した鎖を、自己の念動の魔術で操るものである。


 首からの出血は、色は鮮紅色で、脈を打つように血が噴き出し、この短時間に、すでに多量の血液を失っていた。


(くる)……しい……な)


 鎖を、自身の首にまきつけて、即興の簡易の治癒魔術を発動させているが、能登の実力では付け刃だし、焼け石に水の状態だった。


 痛みと出血で、朦朧としながら、能登は、ずるずると尻もちをつきながら、相手に気取られないように、移動した。


(……距離を、取らなくちゃ) 


 と、能登は、思った。


 木村は、揶揄するように、暗がりの中、見えていない能登に向かって、声を投げかけた。


「どう、意外だったかしら。あなたたちが、井原クンまで辿りつくのは想定だったし、私というジョーカーがいたことも、見抜けなかったようね」


 能登は、黙ったままだった。


 煽る言葉に返したところで、こちらの位置を教える結果になるだけだからである。


「だんまりは、つまらないわね。何かおしゃべりをしましょうよ?籠原、さん」


 能登は、壁によりかかった。


 能登は、慣れない眼鏡を外して、床に置いた。


 少しでも、視覚情報を、確保したかったのである。


 能登との通信手段であるピアスと眼鏡は、両方とも、駄目になってしまったようだった。


 能登がつけている、小さな菱形の銀色のピアスは、骨伝導式の小型通信機である。


 また、麻知子が、能登と視覚情報を共有できるのは、能登がかけている、眼鏡のおかげである。


 眼鏡には、特殊な加工が、施されていて、外部に映像を送れるよう、極薄極小のカメラが、取り付けられている。


(……麻知子ちゃんい、頼ることはできない。今は、私が、何とかしなきゃ)


 能登は、目をつむった。


(よし、これ……か)


 能登は、震えた声で、


「……あなたは、何の力を、持っているんですか?あなたからは、本質的な力は、感じられない」


「そうね。私の力は、あの手帳の切れ端から、得ているものよ。紙を飲み込む感覚は、好きじゃないけど。それで、私がどんな力を得ているかということかしら?バカじゃない、言うわけないでしょう」


 木村は、駆ける音がした。


 能登の声を聞いて、いる位置を把握したからだろう。


(……ここっ!)


 能登は、タイミングを見計らって、鎖の力を発動させた。


 木村の駆ける音と、鎖の罠の位置が、重なったからだ。


 張り巡らせた鎖に足を引っかけた木村が、転がる音がした。 


(時間は、稼げた。今のうちに、扉のほうへ)


 能登が、進もうとした瞬間、


「おあいにくさま」


 能登は、背中に、木村の気配を感じていた。


 木村の呼吸が、首筋にかかっているということは、木村は、屈んでいるのだろうか。


「逃がすわけないでしょう」


 と、木村が、言った。


 次の瞬間、能登は、自身の右肩に、灼けるような激痛を感じた。


 木村のナイフが、能登の柔肌に、突き立てられ、一気に引き抜かれたのだ。


「……はぁっ……!」


 能登のかすれた声が、上がった。


「可愛い声で、泣くじゃない。いじめがいが、あるわ。でも、出血多量で、だいぶ意識も飛んできたかしら?いたぶりすぎるのも、かわいそうだし、そろそろ楽にしてあげるわ」


 能登の身体が、仰向けにゆっくりと崩れ落ちて、そこに、木村が、馬乗りになった。


「……」


 能登の脈拍は、弱く速くなっていた。


「お店の取材に、一緒にいけなかったわね。残念よ」


 能登の小さな口は、半開きになっていて、四肢の力は抜けきっていた。


 真下に振り下ろされたナイフが、能登の胸元に突き立てられる瞬間、ナイフは、床に転がっていた。


「……何の衝撃っ?」


 木村は、ナイフを握っていた手に、痺れを感じながら、激高した。


 暗がりの中、ぼうず頭で無精ひげをはやした、ダークグレーのスーツ姿の中年の男性が、気だるげに、立っていた。


「お疲れさん」


 状況にそぐわない言葉を、男は、口にした。


 能登は、僅かに残っていた意識の中、知っている声だと、感じていた。


(……雨尾家(あまおや)……さん……)

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