1.再会
明るい日差しに顔を照らされ、俺は意識を取り戻した。
瞼はまだ重く、目は閉じている。
「ここは、死後の世界……か……」
死後の世界——
そう……死んだんだ。
無力だった俺は……何よりも大切な存在をこの手にかけ、死んだ。
大切な存在——エリナと共に、レクイエア湖の深い水の中で——
「しごのせかい? なに言ってるんですか? もう朝ですよ。珍しいですね、ルーク様が寝坊されるなんて」
(朝……寝坊………)
何の事だ?
疑問に思いながら、開けかけていた目を見開いた。
視界に入ったのは、見慣れた天井。
そして、窓のカーテンを開けている、クランベル家に仕える若き侍女、エマ・アナク。
「エマ! どうしてここに⁉」
横になっていた上半身を起こし、エマを強く問い質した。
「どうしても何も、ここは私が住み込みで働いているお屋敷なんですから、私がいるのは当然じゃないですか」
「違う! どうして俺はここにいるんだ⁉」
「え?」
エマは、おかしな物を見るような目で俺を見ると、右手を俺の額にあて、左手を自分の額にあてた。
「熱は、ないみたいですね」
話が通じない?
俺はクランベル家の屋敷にある自分の部屋のベッドの上で横になっていた。
死んでいなかったんだ。
それなら、誰かが重症の俺をレクイエア湖から引き上げて屋敷まで運んだはずだ。
なのに、なぜエマは何事もなかったかのように平然と……。
(……どういうことだ?)
少しずつ現状を理解していく中で、違和感に気付く。
剣で斬り付けた首筋に手当をされた形跡がない。
それどころか、傷らしきものも……。
完治している。
傷跡も残らないほどに。
一体、どれだけの時間が経てばここまで回復するんだ。
「エマ、今日は何日だ⁉ あれから何日経った⁉」
「あれからがいつの事かわかりませんけど、十月の二十一日ですよ。一四九二年の」
「なっ⁉ 一四九二年だって⁉」
「ルーク様、本当に大丈夫ですか? お医者様を呼びましょうか?」
心配するエマを他所に、俺はあり得ない現実に向き合った。
過去に、戻っている……。
エリナが王都のロイアード学園に入った年は、星王歴一四九七年。
今が本当に星王歴一四九二年だとしたら、五年前の過去に遡っている事になる。
俺は自分の両手に目を向けた。
記憶にあったものより小さくなっている。
目の前にいるエマも記憶より若い。
二十代前半だったエマは体は、記憶にあったものよりも若干細く、顔のラインも前以上にハッキリとしていて、十代後半の若さを見せている。
「くっ……」
俺はベッドから立ち上がり、
「エリナは、エリナはどこにいる?」
捲し立てるようにエリナの居場所を聞いた。
「エリナ様なら朝の日課をされてますよ」
「朝の日課? 花壇にいるんだな?」
「はい」
俺は礼を言うなり急いで部屋を出た。
エリナの朝の日課は、庭にある花壇の花に水をやる事だ。
(……ぐっ……過去で間違いないようだな)
廊下を走りながら実感していく。
目線が低くなっている。
急激に短くなった手足によって上手くバランスが取れない。
こけそうになりながらも俺は夢中で走った。
エリナのいる、花壇に向かって——




