第18話 プランの破綻
「毒を受けたのは王子だけっ?」
「アタシは大丈夫っ!」
「なんとか〜」
その不幸中の幸いな報告にはホッとしたけども、気を抜く訳にはいかない。
今も毒ガスはこちらの良いポジションを制圧しているし、きっと上からセンが睨んでいるだろうから
ただ範囲自体はせいぜい数メートルと広くはないし、5秒も経てば王子の毒状態も解ける。
だからまだ、全然立て直せる。
「一旦引こう!」
「こっちも、すぐ合流出来る」
「じゃあ、〜っっ!!」
『blue餓鬼道』が『redカリネロ』によって倒されました
「何でここに、カリネロがっっ!?」
『スピネオン一行、ごあんな〜〜い!』
『完っ全に、無警戒だったトマトパーティーサイドの裏どり奇襲!
息を潜めていたカリネロの炎が、スピネオンを焼き尽くす!』
『……作戦勝ち、ですか。
センで上の斜線切りを意識させたところで、カリネロが刺す流れですかね』
『なるほどっ!これでは、スピネオンの残り2人は引けないっ!
一体どう切り抜けるのか!はたまた、ここでやられてしまうのかっ!』
「くっ、バリア張るぞっ!」
「王子大丈夫!?」
「包帯使えばギリ耐えるはずっ!」
王子のアイゼンがバリアを使用したログが流れる。
画面に映る彼のHPはもう半分削られてしまった。
きっとカリネロの火炎放射を受けながら、強引に展開したんだろう。
だからこそ生きてはいるけども、今も毒はその体を蝕んでいる。
「こっちも一応ついたけど……」
ようやく辿り着いた戦場。
だけどもそこを覗き込むと、相手は2人とこちらを警戒する様な斜めの角度でアイゼンの一夜城壁を張っている。
きっと私の復活時間も考慮に入れての展開の向きだ。
これだと戦場に、絡めない。
最初に落とされて、ズルズルやられて負け?
そんなの……認められる訳がない。
でも、どうやってゲームに絡む?
アイゼンのスペシャルで、実質的に一番重要なこの局面で追い出されて……
「あっ……」
それは、ふと見上げた視界の先。
手負いでいずれ退場する鈍足タンクと、紙耐久のアサシン、あまりにも──狩り頃な獲物。
援護、いや仕留めるべく姿を現した……セン。
だけどもそれは意識していないと見落としてしまいそうなサイズで、到底拳銃では仕留めれないレンジ。
距離による威力減衰も酷いだろうから。
でも、マグリスには切り札があった。
外したら負けな状況でも、指は無意識に──スペシャル起動のボタンを押す。
きっとこれは一瞬の隙。
実戦では初めて撃つこの距離、だけども不思議だ……一直線に続く弾道が、見える。
「王子、ジャンプして」
「えっ?」
それを仕留めるべく、少し前のめりになった姿勢。
もう遮るモノは、何もなかった。
『blueアイゼン』が『redセン』によって倒されました
指から放たれた弾丸は、空を裂いていく。
「おい!命令守ったのに死んっ……だけど、死んだ?」
ヒットしたかどうか、発射した私でも視認が難しい距離。
けれども、画面に映るログは嘘をつかない。
『redセン』が『blueマグリス』によって倒されました
これこそが、私が撃ち抜いた証だった。
『はぇ?』
『あらら、それ抜くかぁ〜。
アイゼンで釣ったかな?』
『〜っっ! 信じられませんっ!
あの角度とマップの半分近くの距離がありながらの狙撃っ、しかもヘッドショット!』
『本当に一瞬しかチャンスなかったと思いますけど……迷わずスペシャルを切った判断が良かったですか。
……はぁ。 本当、すごい弟子とったなぁ……あの人』
それはなんとも形容し難いため息。
素晴らしいプレイを讃える感情と共に、ある人間のプレイがどうしてもフラッシュバックしてしまうのだから。
その愚痴は、配信に乗るか乗らないかの絶妙な大きさで、誰にも拾われないまま溢れ落ちていった。
千金TV
・あれ、抜くか!?
あ〜たん
・スナイパーが抜かれてて草
ゴールドから抜け出し隊
・風音様キタ━(゜∀゜)━!!!!
鳴尾
・でも、まだ人数不利ではあるか?
「ナイス風音ちゃんっっ!!」
「先輩と王子は、復活したら一直線に宝石まで走ってって欲しい!
ラムネちゃんは、相手の3人と宝石の間に潜伏して!」
「おっけ、すぐ行く!」
「了解だ」
「りょ〜」
その指示で、攻守が……反転する。
『どうする?』
『伽羅子引いたし、ここは前詰めて……』
自チームは自由に出入りできるアイゼンのバリア。
そこから先陣を切って一歩踏み出したのは餓鬼道。
カウント自体は進んでいるものの、こんな端っこにいてはゲームに絡めないのだから。
そうしてその半身がバリアを出た瞬間、
バンッッ
『あっぶねぇ……マグリス見てるッ!』
乾いた発砲音が鳴り響くと共に、その体を銃弾が襲う。
何とか反応はして、再びバリアに戻れはしたものの結局何も進展してはいない。
『撃ち返……せ、はしないな』
『あっち、すぐ物陰に隠れちゃったからさぁ、本当こまるよぉ……』
そうしてトマトパーティーの餓鬼道が、アイゼンが、カリネロが、先ほどマグリスが現れた場所へ標準を合わしている。
この状態であれば、タンクでもないキャラは少し顔を出しただけで溶けてしまうだろう。
時間は刻々と過ぎていく。
ただ一応この間もトマトパーティー側のカウントが進んでいるのだから、彼らにとっては悪くない。
とはいえ、
『……全然、出てこないけど』
緊張感を保ったまま、その場にいるというのは簡単ではない。
少しずつ焦れていく。
『それ、騙されてないかっ!?アイゼンとカリネロで、マグリス見に行ってみてくれ!』
『おっ、おう……行くぞ』
それは今復帰した、セン使い……レムイ・バサンドの叫び。
3人ともがいると思っていた、コンテナの影。
タンク二人を前にして強引に詰めて行くが、一向に撃ち返しては来ず。
そしてその光景を目にした瞬間、リアルの3人共の口元はきっと……引き攣っていた事だろう。
『私達が……ここに貼り付けにされた、だけ?』
ピコンッ
その音と共にトマトパーティー側のカウントは止まり、スピネオン側のカウントが進み始めるのだった。




