第10話 薄明光戦
『さあ始まりました、第二ラウンド。
このままストレート勝ちかスピネオン!
それとも……修正し、勝利なるか百鬼夜光!』
『立ち上がりは百鬼夜光側は1戦目より慎重に、スピネオンは勢いを活かして強気にといった所です!』
先ほどは、お互い一直線に宝石一歩手前まで走って行った。
だが今回、百鬼夜光だけは少しゆっくり目の立ち上がり。
この動きだと、
『あっち、来てるか?』
『いや、来てなさそうかも。
ラムネちゃんに宝石任せて、3人で前線上げよう』
『了解です!』
『りょ〜』
先に迎え撃つ準備が出来てしまうが。
……これは、
アンラッキーガール
・あえて打開側に回るやつかな〜
必殺技の源となるスペシャルポイントを貯める方法は2つある。
1つは弾を撃たずにいる事と、宝石を確保した際のボーナス。
だが打開側に回ると……弾を撃たない時にSPポイントが溜まる速度を早める事が出来るのだ。
そしてそれを意図的に、しかも初動から引き起こす大胆な作戦。
神視点から見る限りそれは……成功しそうだ。
先にスペシャルの溜まった百鬼夜光。
『よろしく、火車君』
『あいよっ!』
そして腰を少し落とす一鉄がモーションに入り、背中に背負っていた大きな筒をドスンとその場へと設置する。
底には煮え滾った焼き金が、その役割の瞬間を静かに待っていた。
そこへ彼の片手に載せられる位なサイズの球が、筒の中へと……落ちていく。
ヒュ〜〜〜〜
それは、何ともノスタルジックな気分を思い起こさせる発射音。
ただ、それが空で花開く事はない。
放物線を描き……地へ、落ちた。
その瞬間、落下地点を中心として広がっていく白煙。
逃げる事も出来ず、その場にとどまる事しか出来なかったスピネオン。
もう手元しか見えないほどに真っ白な視界。
先に彼らが制圧したはずの宝石地点は、煙に覆われてしまったのだ。
『全く見えないっ!』
『一旦引こう!そこまで範囲は広くないはずだから!』
『……どっち〜?』
『どっちが後ろか、分からないんだが!』
煙は濃く、画面越しに操作するプレイヤーも手探り状態。
ただこれは、スペネオン側だけじゃない。
『いや〜、見えんっ!』
『あはは、これじゃあこっちも動けないよ〜』
これは互いに見えなくなるというデメリットありきでの出力。
一応画面に映るミニマップの矢印を見れば、自分が向いている方向やチームメンバーの位置は分かるのだけど、あれを見ながらプレイするのは結構な慣れが必要だ。
だからこそ、ランクマッチでは利敵とまで言われてしまう。
だけども通話ありでは積極的に採用されるには、訳がある。
『じゃあ火車くん、交代!』
そして煙に包まれた戦場の中、百鬼夜光のIGLが──変わる。
『雪女は、その向きのまま直進。
そして赤色のコンテナをすり抜けたら、アイゼンがいるから』
『OK!』
『唐傘は、全力で右にダッシュして煙から抜けて待機。
マグリスがそっちから抜け出そうとしてるから、そこ狩って』
『りょーかい!すぐ行く』
『サドさんは、一緒に前詰めましょう』
『ほいほ〜い』
それは神視点で見ていても的確な指示。
まるで……全ての敵の位置が見えているかの様だ。
そして、それが比喩でもない真実だった。
一鉄のスペシャル、『薄明光戦』。
ステージの指定箇所を中心として巨大な白煙フィールドを作り出す能力。
それに加えて、自身だけが敵キャラの位置を正確に把握できる副次効果もある。
その使い手が正確に指示をしたならば、
『何でっ、ここに!?』
『blueアイゼン』が『red伽羅子』によって倒されました
『先回りされてっっ!?』
『blueマグリス』が『red餓鬼道』によって倒されました
もうここは、彼の……百鬼夜光側の庭に等しい。
そして受け手側に回った伽羅子と、索敵出来ない餓鬼道ほど脆いキャラはいなかった。
程なく数の力で、攻め潰される。
煙の効果時間は20秒、けれども右往左往する4人を仕留めるには十分すぎる時間だった。
『薄明光戦炸裂!!そして火車旅人選手の的確な指示により、スピネオン側はオールダウン!』
「……おーまいがー」
完全に握られた主導権。
先に宝石解除へ入った状況から一転、スピネオン側が打開を強いられる展開に。
楽土
・苦しいな〜
パンパンジー
・勝てるのかな?
「……まあまあ、まだ全然大丈夫」
一鉄の煙は晴れており、視界は問題なし。
カウントも、別に進み始めたばかりだから余裕はある。
そうして互いにジリジリと、オブジェクトを使いながら距離を詰めていく。
その移動する合間合間で被弾はあるものの、両チームデッドとまではいかず。
そんな状況に飛び出たのは、
『行こう!』
『おっと!ここでスピネオンが飛び出しっ!餓鬼道がリロードに入ったタイミングでの仕掛けッッ!!』
コールと共に、飛び出したスピネオンの4人。
餓鬼道の弾幕が切れ、長いリロード時間に入ろうとした瞬間の仕掛けだった。
それはセオリー通りでもあり、
「あっ……それだけは不味い」
試合を負けにしてしまう敗着の一手になる事もある。
コンテナに半身を隠した餓鬼道の体が、モーションへと入った。
『あっ……』
その呟きは、きっとスピネオン側のものだろうか。
廃都倶楽部プレイヤー全員の心に深い傷跡を負わせた、スペシャルが……来る。
代えの効く鉄砲玉
身につけた灰色のスーツ。
その懐から取り出したアタッチメントが、流れる様な動作の中でサブマシンガンの下から付けられる。
長いはずのリロード時間は全て破棄され、そこには普段の倍である二百発もの弾が込められていた。
何故アイゼンと伽羅子が評価されているのか。
それはバリアで、壁抜けで、餓鬼道と正面から戦う必要がないから。
手負いのキャラとはいえ4人相手は無謀?いや、逆である。
餓鬼道の前に手負いが4人が集まった程度で、姿を晒す方が無謀なのだ。
廃都倶楽部で他を寄せ付けない、圧倒的1位を誇るクラッチ性能。
このゲームを始めた人間は、これを喰らうのがお約束。
それは初心者でも、気を抜いた中級者でも。
上級者でも、あり得ない光景ではない。
『blueアイゼン』が『red餓鬼道』によって倒されました
『blue伽羅子』が『red餓鬼道』によって倒されました
『blue餓鬼道』が『red餓鬼道』によって倒されました
スピネオンももれなく、消し炭となった。
『いただきっ!』
『blueマグリス』が『redアイゼン』によって倒されました
そしてなんとか反応して近くのドラム缶に姿を隠したマグリスだったが、ここはベテランが上回る。
しっかりとハイド場所を潰せる様な位置取りをしており、姿を隠して止まっていた彼女をアイゼンが……百鬼夜光のサドニクスが、討ち取るのだった。
最後の打開には、一鉄のスペシャルによる煙幕が当てられ視界が悪い上に、一方的に位置がばらされてしまう。
結果玉砕覚悟の突撃も、受け止められてしまい……2戦目を落としてしまったのだった。
Ram
・こうなると……
笹笹笹
・一鉄で流れ変わって、餓鬼道に破壊かぁ
壱華の奴隷
・親の顔より見た流れ
寒気タン
・餓鬼道ナーフはよ
レイ
・悲しいなぁ……
ラスト3戦目のスピネオンは若干引き気味の為、大負けはしない。
だが踏み込むべきところで腰が引けてしまったのかジリジリとカウントを進められてしまい、最終的にスピネオンは練習試合を1−2で負けてしまったのだった。




