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3 蛇にでも睨まれたように身体が硬直して…


 美夜の独白 2


 翌朝、早い時間に尊さまが私を迎えに来てくださって車に一緒に乗ったのだけれど、私はなんだか緊張してしまって上手く喋れなかったし、指先は冷えて白っぽくなっていたの。


「美夜、私が側にいるからね。何も心配はいらないよ」


 尊さまはそう言って、両手で私の手を包んでくれた。じんわりと温かい物が体に入ってきて少し緊張がほぐれたみたいだった。


「キスしたいけど、美夜のお化粧が崩れてしまうからね。屋敷に戻ってからにしよう。

 だから…今は我慢してね!」


 って…尊さまがそんな事言うから、私はなんだか顔が赤くなってしまった。



 宮城に着いてから私達は長い長い廊下を歩き、何度も角を曲がり、やっと謁見の間に着いた。


 謁見の間は肌寒かった…。

 もしかしたら、私だけが寒かったのかもしれないけれど。


 私達が帝をお待ちしていると、侍従が声高らかに告げた。


「帝のお成りでございます」


 頭を下げて畏っていると、帝は足音高く入って来られ椅子にお座りになった。そして、謁見の間に響き渡るような大きな声を出して私の名前を呼んだ。


「鬼頭美夜っ!」 


 私は怖くてピクリとなった。


「お前は鬼頭近衛大将の娘だな?

 (おもて)を上げて我を見よ!」


 間近に見る帝はフロックコートをお召しになり、ゆったりと座っておられたが、私に向ける眼差しは鋭かった。


「美夜!お前は知っているか…?

 我が娘は西院七条尊に惚れていてな。どうしても側にいたい、嫁ぎたいと言ったのだぞ!」


(…えっ?)


 私は思わず、尊さまの顔を見てしまった。でも、尊さまは頭を下げたまま身動き一つしない。


「だから…我が直接この男に結婚を申し込んだのだ。幼な子との婚約など破棄して、娘と結婚し皇家と縁戚になってくれと我が頼んだのだぞ。

 勅命にも等しいんだ。断れるわけがない。

 なのに!この男は!」


 そう言って、帝ともあろうお方が尊さまを指差した。


「なのに!この男は『申し訳ありません』と言ってお辞儀したまま氷のように固り、1日動かなくなって…。何を聞いても、申し訳ありません、ばかり言いおって!この我を根負けさせたのだぞ!

 全てはお前のせいだったのだな?鬼頭美夜!

 娘がどれほど泣いたか…!お前にわかるかっ!」

 

(し、しらなかった…。

 尊さまは何も仰らなかった)


 私は微かに上げていた顔をまた下げた。さすがに体が震え始めた。


「鬼頭美夜。顔をしっかり見せよ!」


 ゆっくりと顔をあげて帝を見ると、帝は片方の口角を少し上げていた。


(…わらって…る?)


「ふっ!…ちょっと言っておきたかっただけだ。

 振られた娘の親として、これぐらいはいいだろうよ…。今更お前達をどうこうしても、致し方あるまい!」


 そして帝は尊さまが用意した書類をパラパラとご覧になり、どんっ!と音を立てて私達の婚姻の書類に玉璽を押した。


「西院七条尊、鬼頭美夜。2人の結婚を認める」


 その瞬間、私と尊さまは夫婦になった。





 謁見の間から退出した私達は、また長い長い廊下を歩いた。


 私がホッとしながら伏目がちに歩いていると、前方から先触れの侍従が静々と歩いて来て告げた。


高衣玖皇子(たかいくのみこ)殿下が参られます」

 

 侍従のかなり後ろから角を曲がり、供を従えた高衣玖皇子殿下が姿を現した。


 私は尊さまと共に廊下の端に寄り畏まったけれど、高衣玖皇子殿下が近づくにつれて私は動悸が激しくなり、息が苦しくなってしまった。


 それは多分、高衣玖皇子殿下の来る方向から微かに漂ってきたムスクの香りのせいだったと思うのだけれど…。


 あまりにも辛くて、私がほんの少しだけ顔をあげると、なぜか通り過ぎようとする高衣玖皇子殿下と目が合ってしまった。


 皇子殿下はそのまま通り過ぎるまで目の端で私を捉えていた。


 それは冷たい眼差しで、私はまるで蛇にでも睨まれたように身体が硬直し息が止まってしまった。そして、高衣玖皇子殿下が通り過ぎると私は目の前が真っ暗になった。




 気がつくと私は西院七条家の尊さまの部屋に寝かされていた。


「怖かったね、私の奥さん。

 でも、もう大丈夫だよ。

 帝から玉璽まで頂いて私と結婚した美夜を、あのお方(高衣玖皇子)はどうすることもできない。

 今日からここで一緒に暮らそうね」


 尊さまは私の頬にかかった髪をそっと払い、キスをして言った。


「愛してるよ」


 私は嬉しくて泣いてしまった。尊さまはそんな子供みたいな私に何度も何度もキスをしてくれた。





 ここからは夏夜お兄さまが侍従見習いの山崎さまから聞いたお話なのだけれど…。


 私が倒れてしまった後、高衣玖皇子殿下が父親である帝に拝謁し、鬼頭美夜を側妃にすると告げたのですって。


「お前はあの小娘に惚れたのか?」


 帝はそう言って高衣玖皇子殿下の顔をしげしげと眺め、珍しくも大声で笑ったそうよ。


「高衣玖。お前、一歩出遅れたな。

 先ほど美夜と西院七条尊に勅許を出し、美夜は尊の妻となった。

 ふふ!どうりで…。あの西院七条尊が柄にもなく急いでいたわけだ。愉快な事よ。

 逃がした魚は大きいな。

 だが、諦めよ…」


 皇子は父である帝を、ふん…と鼻の先で笑った様に見えたのですって。


「…………左様で…」


 高衣玖皇子殿下はそう言って静かに帝の御前から下がったけれど、その時、冷たい風が謁見の間を吹き抜けた…と侍従見習いの山崎さまは青い顔をして言ったって、お兄様が教えてくれたの。





 高衣玖皇子(たかいくのみこ)殿下のせいで急いで結婚する事になってしまった私と尊さまは、高衣玖皇子殿下を刺激しないように西院七条の大広間で内輪だけでお祝いの会をする事にしたの。


 家族の他は、尊さまの職場である国防軍の方がお二人、私は貴族学園の同級生、橘理子ちゃんに来てもらった。


 皆はとても残念がった。こんな質素なお式になって…って。けれど私は気にならなかった。


 私はお母さまの形見のウエディングドレスを着て、私の横には国防軍少将の礼装を着た尊さまがいて…。


 理子は私の姿を見ただけで感動して大泣きし、お化粧が崩れて私の乳母の竹野に直してもらっていたわ。


 尊さまと国防軍のお二人、夏夜お兄様は学生時代からのお友達で、4人でグイグイとお酒を飲み楽しそうだった。


 西院七条のお義父さま、お義母さまも鬼頭のお父様と話が弾んでいたの。


 本当に皆私達を祝福してくれてる。そう感じて、私は胸がいっぱいになった。



 夜も更けて会はお開きになり、私は尊さまとお部屋で2人きりになった。


 尊さまが私を抱きしめて、耳元で囁いたの。


「愛してるよ」


 私はこれから先も尊さまの側で暮らしていくのだって、楽しく幸せな日々を疑いもしなかった。





 私は尊さまに学校だけはきちんと卒業したいです、って言ったの。


「当たり前だよ。勉強に手を抜くなんて、この僕が許さないからね。だから後2年、今までと同じように頑張るんだよ」


 尊さまはそう言って私を励ましてくれた。


 毎朝、私は尊さまと車で登校し、車を降りる際には二人でキスをしているのを皆に目撃され羨ましがられた。



 

 鬼頭家からは私の乳母だった竹野が侍女として西院七条家に来てくれた。


 竹野は私が赤ちゃんだった頃からずっと側にいてくれる、私の大切な人。だから、どうしても西院七条家に一緒に来て欲しかったの。




 お義父様とお義母様は都から少し離れた西院七条の別邸へと夫婦で移り住む事をお決めになった。


 お二人がお屋敷からいなくなってしまう…そう思って悲しい顔をしている私に、お義母様はこう言ったの。


「まあ、美夜ちゃん!

 夫と私は消えてなくなるわけではないわ。そんな悲しい顔しないで」


 そして、私と尊さまの暮らしが落ち着いたら爵位を尊さまに譲り、ご夫婦でのんびりと過ごすのだって楽しそうに仰ったの。


 だけど、お義父さまとお義母さまののんびりした暮らしは長くは続かなかった。


 そして、私の幸せは日々も崩れ去ってしまったの。


 誰も想像すらしなかったことが起きてしまったから…。


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