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22 何を言っている?罠に決まってるじゃないか


 尊の反撃 3


 帝が倒れて3日後。  


 その報告を最初に聞いたのは、藤尾内務大臣だった。


 藤尾は宮城の中にある大臣室にいて、高衣玖皇子からの指示を待っているところだった。


 高衣玖皇子は山牟呂皇太子殿下に()毒を盛る計画を立てていたが、帝の執務室にほぼ軟禁状態と言ってもいいほど仕事をさせられていて、藤尾が顔を見る事も出来ないでいた。


 だがつい今し方、午後には皇子宮に帰ると高衣玖皇子から連絡があり、次の指示をイライラとしながら待っているのだった。


 そんな所に鬼頭近衛大将の部下が藤尾の大臣室にやって来て、驚く様な事を言った。


「ほ、本当か!もう一度言ってみろ」


 驚きのあまり立ち上がった藤尾は喜色を顔に出さないように細心の注意を払いながら、再度詳しい報告を求めた。


「はい。山牟呂皇太子殿下が突然倒れ、身罷られました。

 私は鬼頭近衛大将の護衛でありますが、急ぎ藤尾閣下にご報告をするようにとの命令を受け、ここに参りました」


 どたっ!


 音を立てて椅子に座った藤尾は、目の前に立つ男の顔をまじまじと見た。

 

「すまんが状況をもう一度、詳しく説明してくれ。頭が混乱しているようだ」


「はい。鬼頭近衛大将は山牟呂皇太子殿下からの呼び出しを受けて帝の執務室に参られました。

 お2人はしばらく話をされた後、共に帝のお見舞いに伺おうということになり、山牟呂皇太子殿下が立ち上がりました。

 すると、山牟呂皇太子殿下は…突然胸を押さえて倒れました。顔が真っ青になっておられて、とても苦しそうで…」


 近衛隊員も辛そうな表情になり、言葉を詰まらせた。


「とりあえず医官を呼びましたが、医官が来た時にはもう山牟呂皇太子殿下は息をしておらず、そのままお亡くなりになった事が確認されました。

 元々、心の臓に病気をお持ちだったようで、そのせいで子供の頃からずっと離宮に籠って療養されていたとの事です。

 摂政になられ無理をされたのであろうと医官が言っておりました。

 鬼頭大将から、誰よりも先ず最初に藤尾内務大臣に報告をせよとの命令を受け、私がここに参りました」


 藤尾は眉根を寄せて考え込んだ。


(…これは罠ではないのか。我々にとってこんな都合の良い時に、山牟呂皇太子が急逝されるなど、あり得ないだろう…。

 どうする?どうするのが正解なのだ?)


「他の誰かに報告は行っているのか?」


「いえ。内務大臣だけです。

 重大な事なので、鬼頭大将より他言はするなとその場にいた者全員に緘口令が出されました」


「その場にいたのは誰と誰だ」


「はい、山牟呂殿下の侍従が2人。鬼頭閣下の従者は私だけでした。

 医官は助手を2人連れておりましたが、医の倫理に従って他言はしないと誓っておりました」


「委細はわかった。まず私が山牟呂殿下にお目にかかる。執務室におられるのか?」


「はい、執務室の仮眠「行くぞ」」

 

 藤尾は最後まで聞かずに従者を1人伴い、せかせかとした足取りで廊下へ飛び出した。


 どんっ!と大きな音を立てて帝の執務室の扉を開けると、藤尾は周りには目もくれず、どすどすどすと足音を響かせ、ノックもせず仮眠室の扉を開けた。

 

 まず目に飛び込んだのは大きなベッドで、その上には山牟呂皇太子殿下が横たわっていた。真っ白な布を体に掛けられていたが、なぜか顔は顕になっていて、遠くから見ると今にも動き出しそうだった。

 

 藤尾はゆっくりと山牟呂殿下に近づいた。そしてこんな時なのに山牟呂殿下の美しさに見入ってしまい、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 気づくと、殿下のすぐ側には鬼頭近衛大将が座っていて、眼を微かに赤くしながら山牟呂殿下を見つめていた。


 藤尾は鬼頭大将をキッと睨むと詰め寄るように問いただした。


「本当なのか?山牟呂殿下が本当にお亡くなりになったのか?」


 鬼頭真は立ち上がり、藤尾に頭を下げた。


「藤尾殿…。山牟呂様が…」


 武勇で名を轟かせた鬼頭近衛大将が堪えきれなくなったのか、肩を振るわせた。


「鬼頭殿。私には俄には信じられん。

 この目で確認する。

 御免!」


 そう言うと、藤尾は無礼にも山牟呂皇太子に掛けられていた白布をぱあっとめくった。皇太子殿下は胸の上で手を組んでいて、まるで午睡でもしているようにしか見えなかった。


 藤尾は山牟呂皇太子にそっと手を伸ばし一度引っ込めて、二度三度と大きく息を吸った。


 そして、思い切った様に山牟呂殿下の体に触り始めた。

 

 呼吸はしていない

 脈も触れない

 顔はすでに白っぽい。


 藤尾はやっとこれは事実であると認めた。


(山牟呂殿下は死んだ!

 私達が手を下すまでもなく、死んでくれた!)


「ほ、ほんとうに…お亡くなり…になってしまったんだな…?」


 藤尾の口はカラカラに乾き、思う様に喋れなかった。


「はい、医官達が確認いたしました。

 残念ですが、間違いございません」

 

「わかった。鬼頭殿はこのまま山牟呂殿下に付き添って差し上げるように。各部署には私が連絡を取る。後の事を考えるのはそれからだ…」


 そう言い残して藤尾内務大臣は来た時よりも足取り軽く執務室を後にした。


 はねる様にして寝所から出て行った藤尾の後姿に深々とお辞儀をした鬼頭真は、頭を上げるとふんとでも言う様に鼻先を上げた。


 従者が扉を閉めると、誰かがくすりと笑った。





 


 山牟呂皇太子殿下は死んだ。


 その事実をまずは高衣玖殿下に一刻も早く知らせなくてはならないと思った藤尾は、高衣玖皇子の皇子宮に急いだ。


 皇子宮に着くと大声で高衣玖殿下の名を呼びながら、藤尾はどんどんと奥へと進んでいき、寝所へと入って行った。


「殿下!高衣玖皇子殿下!どこにおられますか?

 高衣玖皇子殿下!た、大変な事が起きましたぞ!」


 すると、高衣玖皇子は風呂上がりの濡れ髪で、侍従達を従えて藤尾の前に顔を出した。


「なんだ?何の用だ。

 俺はやっと書類の山から解放されて戻ったところだぞ!これから女達と飯だと言うのに、無粋な奴!」


 そんな言葉を聞き流し、藤尾は侍従達を睨みつけた。

 

「殿下に大切な話があるんだ!お前達は席を外しなさい」


 侍従達はどうしたものかと高衣玖皇子を見たが、高衣玖皇子はあっちに行けとばかりに顎をしゃくって、侍従達を退室させた。


 藤尾は侍従達の気配が無くなるまで待ってから高衣玖皇子に近づき、耳元で言った。


「殿下、山牟呂皇太子が亡くなりました!」


 説明を聞いた高衣玖は、ふ…と笑った。


「罠だろう?

 帝の執務室からも、隣の山牟呂の部屋からも何も聞こえては来なかったぞ」


「しかし、山牟呂殿下は本当に死んでました」


 小馬鹿にした目で見る高衣玖皇子に、藤尾は堰を切ったように話を続けた。


「私をバカにしておられるのですね。みすみす罠に引っかかったとか、焦って見間違ったとか…。ですがね、私はこの目でしっかりと確認いたしましたよ。間違いございません。

 息もしておりませんでした。

 脈も触れませんでした。

 疑いようもなく、山牟呂皇太子殿下は死んでおりました!」


 そう言いながら藤尾内務大臣は両手を広げて天を仰ぎ、相合を崩した。


「はっ!こんな都合の良い時に、自ら死んでくれるとは。神は我らの味方ですな。

 これで高衣玖様は何もせずに皇太子ですぞ」


「何を言っている?お前はバカか?罠に決まってるじゃないか。

 本当に奴が死んだというのなら、そうだな…」


 高衣玖皇子は藤尾の耳元で囁いた。


「奴の胸を一突きし、帝にもう一度、毒を飲ませるんだな…。そうすれば完璧にあの2人はあの世行きだ…」


 藤尾の顔色が悪くなった。それを見た高衣玖皇子は藤尾に追い討ちをかけた。

 

「ふん、なんだよ…1人じゃできないのか?

 じゃあ、横山侍従長と一緒にやればいいだろう。

 言っておくがな、俺は皇太子になったぐらいじゃ満足しない。俺は帝になるんだよ。お前は俺の側近でいたいんだろ?

 だったら、やれ!」


 高衣玖皇子は濡れ髪をかき上げながら2歩3歩と歩くと振り返った。


「俺は女達と飯だ。

 その後、美夜を抱きに行く。邪魔するな」


 そう言われた藤尾はうなだれて執務室に戻ったのだった。


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