乱戦
「……⁉ 皆、くるよ。構えて」
イリアが発した直後、彼女自身と率いる戦士達の全身から雷撃が迸り、こちらへ襲い掛かってきた。
僕の声に反応し、皆は天昇龍の上を移動しながら避けていく。
でも、イリアはその姿を見てにやりと口元を緩めた。
「私達を今までの雑兵と同じと思うな」
彼女がそう叫んだ瞬間、雷撃が球体となって宙に漂った。
次いで、その雷球は意思を持ったかのようにこちらを追いかけてくる。
「くそ、面倒な魔法を使いやがって」
オヴェリアが舌打ちをし、雷球に向かって跳躍した。
「雷と言っても魔法だろ。なら、魔力付与の攻撃で破壊するまでだぜ」
「オヴェリア、無闇に手を出したら駄目だ」
咄嗟に叫ぶも、彼女は止まらない。
横目で見やれば、イリアは不敵に笑っていた。
「その程度の動きで、私達の操る雷光球【オプション】は防げないよ」
勝ち気な口調が響きわたった瞬間、オヴェリアが蹴って破壊しようとしていた雷光球が急停止し、進行方向を変えて急発進した。
「な……⁉」
蹴りが空振りとなったオヴェリアは目を丸くするも、気付けば雷光球は彼女の上下左右に位置して取り囲んでいた。
「いけ、雷光球」
イリアの声が響きわたったその時、雷光球から一筋の雷が細い光線のように放たれる。
「くそ……⁉ うがぁああああ⁉」
オヴェリアは咄嗟に魔障壁を正面に展開するが、死角からの攻撃が直撃。
彼女の全身に雷撃が迸った。
でも、悲痛な叫びを上げたのは彼女だけじゃない。
ブレイド・ベルに属する皆の苦痛を帯びた声が次々に聞こえてくる。
周りを見渡せば、イリア以外の戦士達も雷光球を使いこなし、皆の死角を突いて雷撃を浴びせていた。
魔障壁を球体状に発動するのは相応の魔力を消費してしまう。
通常は攻撃を視認、あるいは予想できる範囲でしか魔障壁は展開しない。
イリア達の操る雷光球は、その点を上手に突いた魔法だ。
以前、変装していたイリアと手合わせしたことがあるけど、あの時よりも魔法の扱いがずっと上手になっている。
おまけにイリアの率いる戦士達も彼女に負けず劣らず、魔法の扱いが上手い……このままじゃじり貧だ。
止むを得ない、か。
僕は領地に置いてきた、兄と慕ってくれる『妹』に心の中で『ごめん』と謝りつつ、迫り来る戦士達に振り返った。
「皆、僕達はここで止まるわけにはいかないんだ。攻勢に転じよう」
「やっとやる気になったか、リッド・バルディア」
イリアが槍を構えてこちらに突進してくるも、「てめぇの相手は俺だ」とヴェネが僕の前に割って入ってきた。
「部族長如きが、私の邪魔をするな」
「はは、俺を『如き』とは言ってくれるぜ。ホルストの小間使い如きがよ」
ヴェネは白い八重歯を見せ、鬼の形相を浮かべるイリアと激しい近接戦を開始する。
ブレイド・ベルの皆も僕の声で回避に専念するのを止め、襲いくる戦士達に攻撃を繰り出していく。
瞬く間に乱戦となるなか、紺色の鎧を身に纏い、兜を被った戦士が槍で鋭い突きを無言で繰り出してきた。
「……」
「く……⁉」
咄嗟に腰の魔刀を抜き、槍の切っ先を払いのけたその時、兜の隙間から戦士の青い瞳と目が合った。
その瞳はとても悲しく、寂しそうで、迷子になって誰かを探している子供のように怯えているみたいだった。
「この感じ……⁉」
次の瞬間、僕の脳裏に煌めきが走った。
魔力の色や気配がとても弱くなっているけど、間違いない。
この戦士は、いや、この子達は……⁉
僕は咄嗟に魔刀を片手に持ち、紺色の兜で顔を隠している戦士の間近に迫って肩を掴み、叫んだ。
「どうして、どうして君がここにいるんだ。アリア!」
「……⁉」
アリア達はバルディアで僕達の帰りを待っているはずだった。
ホルストがアリア達に何をしでかすのかわからなかったからだ。それなのに。
心配、怒り、戸惑い、色んな感情が頭の中を駆け巡っていくなか、兜の奥でアリアの青い瞳が大きく泳いだ。
「ち、違う。私は、お前の言う、アリア……じゃ、ない。私はアリ、ア・パド、グリー。お、お父様、ホルスト様に仕える戦士……だ⁉」
彼女は声を震わせてそう告げた後、雷撃を迸らせて僕を吹き飛ばした。
「ぐ……⁉ 違う、君はバルディア家の一員、僕の妹の『アリア』だ」
受け身を取って天昇龍の背中に着地し、すかさず呼びかけるも、僕の目の前に深い緑色の兜と鎧を纏った戦士が割って入ってきた。
背丈からして大人の戦士か。
もしかして、イリア達を監視する役目を与えられているのかもしれない。
訝しみながら正体を探るべく兜の隙間から瞳を見れば、アリアと同じ青い瞳をしている。
そして、目が合うと同時に再び脳裏で煌めきが走った。
「まさかそんな……⁉ 君はシリア、シリアなのか⁉」
「貴方、なんて知らな、い。主の命に、従う、だけ」
シリアは無感情で淡々と答えつつ、自身の周囲に大量の雷光球を生成した。




