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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第十章

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来訪者とリッドの推理

「レナルーテにいる頃よりも、かなり可憐な顔付きになっているぞ。相当、婿殿にほだかされたとみた」


「え、えぇ……⁉」


ファラは顔を真っ赤にして耳を上下させながらたじろぐも、エリアスは「おやおや、その様子は図星かな」と意地悪そうに続け、口元に手を添えながら僕を見てにやにやし始めた。


「婿殿が愛妻家という帝国での噂はレナルーテまで届いておるぞ。ズベーラでは『妻馬鹿』とも呼ばれているそうではないか」


「あはは。噂は全て事実ですし、否定するつもりもありません。ですが、そう茶化さないでくださいエリアスお義父様。皆の目もありますから」


「そ、そうです。茶化すのは止めてください、父上」


「はは、エルティアから聞いていたとおり、二人が仲睦まじい様子で喜ばしい限りだ。これならレナルーテと帝国、もとい我らとバルディアは安泰だな。いやぁ結構結構」


「で、ですから、茶化すのは止めてください、父上」


ファラが珍しく大声を上げるも、エリアス陛下は豪快に笑ったままだ。


気さくなやり取りに、この場にいる皆は呆気に取られている。


この場でエリアス陛下と面識があるのは僕、父上、ファラ、メルなどの一部のみ。


加えてエリアスのこうした気の良い部分を知っているとなれば僕、父上、ファラぐらいだから無理もない。


「……陛下、そろそろお止めください。皆、困惑しております」


「そうですよ、父上。それに積もる話はここでしなくても良いでしょう」


エルティアとレイシスがため息を吐くと、エリアス陛下は「それもそうだな」と頷いた。


「では、ライナー殿。案内をお願いしてもよろしいかね」


「畏ま……」


「ライナー殿。口調を崩してくれたまえ」


「……わかりました。では、こちらへどうぞ」


父上は小さなため息を吐き、屋敷に向かって歩き出す。


その後をエリアス陛下、エルティア義母様、レイシス義兄が続いて行く。


僕達もその後を追いかけていった。



「ほほう。つまり、この屋敷がファラに用意した別邸というわけだな。婿殿」


「はい。ただ、本邸は先の戦いによる襲撃で全焼してしまいましたので、今はこちらが本邸の扱いになっております」


「父上、こちらではレナルーテ式と帝国式のお部屋。それから双方の特徴を取り入れた和洋折衷のお部屋もございます。どれも素晴らしい造りですので、きっと旅の疲れが癒やされると存じます」


ファラが補足するように僕に続くと、エリアス陛下は目を細めて「そうか、そうか」と頷いた。


邸内の案内をエリアス陛下にお願いされた僕は、皆を先導するべくファラと並んで先頭を歩いている。


陛下の隣にはレイシス義兄さん、背後にはエルティア義母様が続いている。


レイシス義兄さんは平静を装いつつも、屋敷の造りに興味津々らしくて目線が忙しない。


エルティア義母様は前回に続いて二回目の訪問になるし、落ち着いた雰囲気で淡々としているようだ。


「……ところで婿殿」


「はい、何でしょうか?」


陛下はそう切り出すと、僕の耳元に顔を寄せてきた。


「婿殿はライナー殿と私が交わした『例の件』を知っているのかな?」


「父上と交わした例の件……ですか?」


はて、何のことだろう。


父上とエリアス陛下が特別に交わした約束があるのだろうか。


だけど、僕は何も聞かされていない。


つまり、知らなくて良いこと。


あるいは知らない方が良いことだろう。


僕は素知らぬ顔で首を横に振った。


「申し訳ありません。これといって心当たりがありません。父上に尋ねてみましょうか?」


「いやいや、知らないならそれはそれで構わんよ。忘れてくれたまえ」


「はい、わかりました」


にこりと微笑みつつ、ちらりと背後を見やれば父上がこちらを見て微笑んでいた。


ただし、目の奥が笑っていない。


僕はすっと前を向いて、平静を装いつつ考えを巡らせた。


エリアス陛下は屋敷の造りを見て、父上と交わした『例の件』と言ってきたわけだから、おそらく『例の件』とやらはこの屋敷に関わっているはず。


でも、父上は『例の件』の詳細を僕に伝えていない。


もし教える必要がない、あるいは僕が知らなくていい……そういう判断を下したと仮定するなら、僕が嫌がる、もしくは気を遣ってしまう問題なのかもしれない。


父上とエリアス陛下が交わした約束、新屋敷、僕が気を遣うもしくは嫌がること、か。


うー……んと、皆に悟られぬよう唸ったその時、ファラが「父上。こちらのお屋敷なんですけど……」と嬉しそうに切り出した。


「レナルーテでリッド様と顔合わせした後、『バルディア領で暮らすなら、どんなお屋敷が良いですか?』って聞いて下さって、その要望のほとんどを叶えて下さったのです」


「ほう、それは初耳だ。しかし、王族との顔合わせでそのような求婚同然の発言をするとは。やはり婿殿は隅に置けぬな」


「あ、あはは。恐縮です」


照れ隠しに頬を掻くも、何やらエリアス陛下から鋭い視線で射貫かれた気がした。


それになんだろう。


名刀で銅をばっさり横一文字に一刀両断されたような、この感覚は。


血の気が引いてぞっとするも、結果的に頭も冴えたのか、僕の脳裏で全てが繋がったような気がした。


そういえば、この屋敷を新築で建設することが決まった時、駄目元で全ての要望を突っ込んだ超、超高額の申請書を出したんだよね。


でも、予想に反して父上は一言も反対せずに通してしまい、こちらが面を喰らったほどだ。


あの時は唖然として、お金の出所を深く考えていなかった。


だけど、屋敷の造りを見てエリアス陛下が父上との『例の件』という発言をした以上、お金の出所はエリアス陛下もといレナルーテだったのかもしれない。


ファラとの顔合わせで初めてレナルーテに出向いた際、高位華族の『ノリス・タムースカ』の陰謀に僕は巻き込まれた。


詳しいことは知らないけど、父上は内心憤慨していたみたいだし、『例の件』とはあの一件を元に引き出したことなのかもしれない。


ふいにファラを見やれば、エリアス陛下に満面の笑みで屋敷のことを語っている。


僕の考えが事実かどうかわからないけど、確認すればファラは気を遣ってしまうだろう。


ファラの笑顔と、レナルーテの国庫あるいはエリアス陛下のお財布事情。


どちらを取るべきかと言われれば、僕が選ぶのは『ファラの笑顔』一択のみ。


うん、決まりだね。


『例の件』は金輪際忘れよう。


一、二の……ポカン。


僕は『例の件』について綺麗に忘れた。


そして、にこりと微笑み、エリアス陛下に振り向いた。


「エリアス陛下。ところで昼食は取られましたか?」


「いや、まだだ。バルディアでの食事は実に美味と聞いていたのでな」


「では、部屋にご案内した後、皆で会食するのは如何でしょうか?」


「うむ、そうしてもらえると有り難いな。レイシス、エルティア。二人も異論ないかね?」


「はい、私は構いません」


「私も異論ございません」


二人がこくりと頷くと、エリアス陛下はこちらに視線を戻した。


「だそうだ。婿殿、改めて案内を頼むぞ」


「畏まりました。では、こちらへどうぞ」


僕は威儀を正し、エリアス陛下達をこの屋敷で最も位の高い部屋に案内した。


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