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第九章 白鳥の歌 場面二 孫との対面(四)
間もなく、ファビウス・マキシムスは自殺した。
人々はその理由をいぶかしんだ。マキシムスは六十歳を越えていたが、まだまだ働き盛りと周りから見られていたのだ。それが病でもなく、罪を着せられたわけでもなく、突然自ら命を絶つとは。
ティベリウスは、リウィアがマキシムスを訪れたことを知っている。マキシムスは、アウグストゥスとポストゥムスとの間で交わされた会話の、唯一の証人だ。マキシムスは妻に、アウグストゥスがプラナシア島を訪れたことは漏らしたが、まさか会話の内容まで漏らしたとは思えない。マキシムスは誠実な男だった。彼はアウグストゥスとリウィアとの間で板ばさみになって苦しんだ挙句、秘密を守りきるために自害したのではないだろうか。そう思ったが、確かめる術は既にない。妻のマルキアは勿論のこと、アウグストゥスの悲しみようは並大抵のものではなかった。弱った身体で葬儀に出席すると言い張ったアウグストゥスを、皆で必死に制止したほどだ。代理でティベリウスが出席して弔辞を読み、火葬場へと付き添った。