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第九章 白鳥の歌 場面二 孫との対面(二)

 ティベリウスは嘆息する。

「それがアウグストゥスの意志なら、逆らっても詮のないことです。ですが、わたしは既にアウグストゥスの共同統治者です。護民官特権も全軍指揮権も共有し、二度の凱旋式を挙行した凱旋将軍でもあるのです。今更ポストゥムスを後継者に指名したとて、どれほどの者が従うとお思いですか」

「お前は甘いわよ」

 リウィアは聞く耳を持たなかった。

「あの粗暴な男が戻ってきたら、お前だけじゃない、ゲルマニクスもドゥルーススも立場が危うくなるのよ。何故それぐらい考えないの。あんな男がローマを統べるようなことにでもなれば、この国は崩壊するわ」

 ゲルマニクスとドゥルーススは、リウィアにとっては可愛い孫だ。ポストゥムスとは違う。だが―――と、ティベリウスは内心不快な気持ちが湧き上がってくるのをどうしようもなかった。国のことを思っているような発言は、正直慎んで欲しい。この女にあるのは、権力欲だけだ。アウグストゥスの血縁への執着を考えても、リウィアのものは、はるかにレベルの低いものだった。アウグストゥスの願いは血縁をもって権力の継承を安定化することであり、リウィアのそれはただ単に自分の血縁を権力の座につけることなのだ。

 ティベリウスはアウグストゥスから実力を認められ、共同統治者に抜擢された。それにふさわしい実績も積んできた。いかに孫への愛情があったとしても、今更後継者を取り替えることが出来るとはとても考えられない。

『プラナシア島へ行かせてくれ』

 アウグストゥスはティベリウスの手を取り、潤んだ灰色の眸で見つめた。ポストゥムスの名は口に出さなかった。二人の間で、その名は口にされなかったのだ。ティベリウスも、養父に理由さえ尋ねなかった。ただ友人のマクシムスと共にプラナシア島へ渡り、愛する孫に会いたいというアウグストゥスの願いを―――彼はそうは言わなかったのだが―――叶えるため、できる限りの協力をすると言っただけだ。

 ポストゥムスも七年間の追放生活を経て、二十四歳になっている。死期が近いことを悟ったアウグストゥスは、祖父としての情愛からこの孫との再会を望んだのかもしれない。だが、同時にこの養父は、孫に会い、その状態を確かめた上で、自分亡き後の処遇を見定めようとしたのではないだろうか。ティベリウスにはそんなふうに感じられた。流刑地に留めるか、本土へ移すか。あるいはローマへと呼び戻すのか。アウグストゥスがローマに戻ってきたとき、ティベリウスはそれを思って少し緊張していたのだ。だが、アウグストゥスは何も言わなかった。

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