第八章 テウトブルクの森 場面三 ゲルマニア(五)
すなわち、ティベリウスはこう問わざるを得ないのだ。
ゲルマニア征服は可能であるか。
ゲルマニア征服は有益であるか。
ティベリウスは三日後にはこの地を去り、ローマへと帰還する。そして十月には、ずっと延期されてきたパンノニア・ダルマティアの戦勝に対する凱旋式を挙行する予定になっていた。五十二歳にして迎える、二度目の凱旋式だ。そして来年の春からは、レーヌス河上流を担当する「高地ゲルマニア」の四個軍団と、下流域を担当する「低地ゲルマニア」四個軍団、計八個軍団の総指揮は、現在執政官職にあるゲルマニクスが、その任期終了後に担当することになっていた。弱冠二十五歳の執政官が、来年には八個軍団の総司令官に就任するのだ。
神君カエサルよ。将軍アグリッパよ。わたしの半身であった大切な弟、ドゥルーススよ。ゲルマニアの森深く倒れた、我が同胞たちよ。
どうか、わたしを導いてくれ。
カエサル家の一員となったとき、ティベリウスは父の霊に祈った。あなたの息子が道を誤らぬよう、どうかお導き下さい―――と。その祈りは、常にティベリウスの心にある。死すべき定めの一人の人間に、一体どれだけのことが出来るのだろうか。問い続け、戦い続けてここまできたのだ。