第八章 テウトブルクの森 場面三 ゲルマニア(一)
この地で、ティベリウスは三年を費やした。
恐れていたゲルマン人の総決起は起こらず、彼らがレーヌス河を越えて押し寄せることもなかった。アルミニウスは勇敢で大胆、かつ狡猾な若者ではあった。だがこのゲルマン人の若者には、恐らく、多くの部族を束ねるには何かが欠けていたのだ。確かに、反ローマに起った部族も少なくはなかった。だが、実の弟であるフラウスはローマ軍の一員であり続けたし、彼の亡き父の弟、つまり叔父にあたる重鎮イングイオメルスも、今のところ静観の態度を崩そうとしていない。マロブドゥス率いるマルコマンニ族は共闘を拒否し、レーヌス河西岸に住むバタウィ族、カッティ族はローマとの友好関係を堅持している。更にこの若者は、他人の婚約者を奪って妻にするということまでしていたから、縁戚によって味方を得ることも出来なかった。義父にあたるセゲステスはアルミニウスを憎悪し、ウァルスにアルミニウスの陰謀を密告さえしたのだ。だが、ウァルスはセゲステスよりもアルミニウスを信じた。
結局、ゲルマン人は各部族が分裂したまま、小規模な反乱を各地で繰り返すしかなかった。
【地図】ローマ北部とその周辺
https://ncode.syosetu.com/n8164fx/13/