第八章 テウトブルクの森 場面二 アルミニウス(三)
ティベリウスは基地内の病院を訪れ、生き残った者たち一人ひとりに声を掛け、話を聞いた。彼らのほとんどが、ティベリウスのかつての部下たちだった。傷の深さ浅さに関わりなく、生き残った兵たちはとても任務に復帰できる状態ではなかった。ティベリウスの手を握り締めて泣き崩れる者もいれば、うつろな眸をしたまま、言葉さえも出てこない者もいた。ティベリウスが到着してから数日のうちに、その中の数名が息を引き取った。
レーヌス河を守る三個軍団は手付かずで残っている。だが彼らの間にも少なからず動揺が広がっており、態勢を立て直す必要はあった。ティベリウスは何度か彼らを組織してレーヌス河を越えたが、それはほとんど軍事演習とも、ゲルマン人たちへの示威行動ともつかない小規模なものだった。ティベリウスは普段のやり方を変え、作戦会議を頻繁に開いて軍団内の意見を聞き、それによって彼らが自信を取り戻すよう努めた。多くの者が目と鼻の先で起こった惨劇に萎縮し、意気消沈していたからだ。更に軍事行動から食糧の調達まで、徹底して慎重を期すことを命じた。不注意から起こった惨劇を、二度と繰り返してはならない。繰り返し、それは叩き込んでおかなければならなかった。