第八章 テウトブルクの森 場面一 ウァルスの悲劇(三)
首都に入ると、ティベリウスは軍装姿のまま、すぐにアウグストゥスを訪れた。ゲルマニクスはアウグストゥスの邸に住んでいるため、直接そちらへ戻っている。
アウグストゥスの邸にはドゥルーススが詰めていた。ドゥルーススは元老院議員が身につける赤い縁取りのついた長衣を身につけ、玄関前広間で父を迎えた。約半年ぶりになる。ドゥルーススはティベリウスの手を取った。
「よくお戻り下さいました」
「留守中、ご苦労だった」
ティベリウスは言った。ドゥルーススはちょっと笑みを浮かべた。
「そのお言葉はまだ早いかもしれません。アウグストゥスが首を長くしてお待ちかねです」
「ドゥルースス」
案内しようとした息子を、ティベリウスは呼び止める。
「ご様子はどうだ」
尋ねると、ドゥルーススは少し眼を伏せる。
「………痛々しくて。昼も夜も、ずっとご自分を責めておられます。執政官以外、ほとんど誰にもお会いにならず、ただひたすら、父上を待っておられました」
ティベリウスが頷くと、ドゥルーススは「父上」と言った。
「マルコマンニ王が、アルミニウスとの共闘を拒否して、ウァルス殿の首をローマに届けてきました。昨日葬儀を執り行い、アウグストゥスの霊廟に安置しました。アウグストゥスのご指示で」
「マロブドゥスが―――」
マロブドゥスはイリュリア人との共闘を拒否したように、同族であるゲルマン人の誘いにも応じなかったのだ。一族の運命を背負っている以上、決して信義や友情だけで行動する男ではない。彼なりの冷静な判断があってのことなのだろう。だが、やはりマロブドゥスは、ティベリウスにとって得がたい友だった。彼の不参加は、ゲルマンの民族に少なからぬ影響を与えるだろう。
「ありがとう。数少ない、明るい知らせだ」
ドゥルーススは小さく頷く。
「行こう」
ティベリウスは息子の後に続き、養父の部屋へと向かった。
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