第七章 イムペラトル 場面七 イムペラトル(八)
しばらく沈黙がおりる。西の空にかかる太陽が、敗将の顔を斜めに赤く照らした。
「我々はあなたを知っていた」
静かな口調でバトは言った。
「二十年の昔、この地を制した若き将軍、ティベリウス・クラウディウス・ネロの名を、子供でさえも知っていた。そして今、再びあなたの名は、畏怖と共にこの地に深く根を下ろすだろう。偉大なる、ティベリウス・ユリウス・カエサルよ。我々イリュリア人の間で代々語り継がれるであろうお方に、触れることをわたしにお許し下さるか?」
ティベリウスは許可を与えた。バトは立ち上がり、設えられていた一段高い演壇に登り、床几に腰を下ろしたままのティベリウスの手を取る。
誰かが、「イムペラトール!」と歓声を上げた。それが合図となったかのように、皆が口々にそれに続いた。
「イムペラトル・カエサル、万歳!」
ティベリウスは床几から立ち上がり、剣を抜いて天高く掲げた。
「イムペラトル・アウグストゥス、万歳!」
兵士たちの声がそれに続く。夕日に照らされた兵士たちの銀色の鎧が、まるで黄金のように眩しく輝いた。
ああ、神々よ!
歓呼の中、快い解放感と共に、ティベリウスは思った。
ローマに、栄光あれ!
※