第七章 イムペラトル 場面七 イムペラトル(七)
バトは、自身のことは一切求めなかった。ただ、一族の助命だけは願った。
「確かに我々は武器を取り、ローマに反旗を翻した。だが、ローマ人にも責任はある。属州の民は、あなた方にとって役に立つ羊に過ぎないかもしれない。だが、牧者であるあなた方が連れてきたのは羊を守る牧羊犬でなく、羊を貪る狼であった」
ティベリウスはそれに答えて口を開いた。
「あなた方が起こした戦争の責任を、こともあろうにその一部でもローマに転嫁するがごとき発言は、今後一言たりとも許さない。それは肝に銘じてもらいたい」
青い眸に燃え上がる敗将の怒りをじっと見つめながら、ティベリウスは言葉を続けた。
「だが、それとは別のこととして、本国であれ属州であれ、同盟国であれ、そこに住まう人々の声に耳を傾け、公平な判断を下すのは、我がローマの責務であり、建国以来変わらない伝統だ。あなた方がこの地で抵抗を続けている間にも、パンノニア地域の被害の算定と暫定処置の決定が既に着々と進められている。それは当然、この地においても直ちに着手される。その上で、以前のやり方に固執せず、改められるべきことは直ちに改められる」
ティベリウスはそこで少し間をおいた。
「もし仮に我々が羊を養う牧者であるとしても、牧者の仕事は羊の皮を剥ぎ肉を食らうことではなく、羊を養いその毛を刈ることだろう。牧羊犬が狼のごとく振舞うなら、それを罰するのは牧者である我々の役目だ。だが、我々はそもそも支配者ではなく、あなた方との共存と共栄を願う協力者であり、運命を分かち合う者だ。我々の耳は、禽獣とは異なり常に外に向かって開かれている。どんな些細なことであっても、まずは忌憚なく話を聞かせてもらえることを、我々は世界の全ての人々に対して望む。剣を交えるのはその後でも遅くはない」