第七章 イムペラトル 場面七 イムペラトル(六)
日が傾き始めた頃、バトはティベリウスが指示したとおり、身一つで投降してきた。黒々とした毛艶の駿馬に跨り、歩哨たちが固唾を飲んで見守る中、夏日の中の一つの影のようにローマの陣営の前に降り立った。神君カエサルの前に膝を折った時のゲルマンの名将、ウェルチンジェトリクスがそうであったように、バトもまた彼らの部族の堂々たる武装姿だった。正門で馬を預け、軍団長に従ってゆっくりと歩いた。
ティベリウスもまた真紅のマントに身を包み、正式軍装で臨んだ。床几に腰を下ろし、この族長と向かい合った。五十代にはなっているだろう。背は高かったが、長い篭城生活のせいもあってか、体つきは痩せ気味だ。真っ直ぐに総司令官を見つめてくる鮮やかな青い眸は、息子のそれと同じだった。
「ローマの卓越した将軍、ティベリウス・カエサルよ。わたしは一族と共に武器を捨て、あなたに降伏し、一切の我々の運命をあなたに委ねることをここに約束する」
バトはよく通る声で言う。ラテン語だったが、息子よりも訛りがきつく、切れ切れに響いた。ティベリウスはゆっくりとそれに答えた。
「降伏を許す」
三年半に及んだ戦役は、この瞬間についに終わったのだ。
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