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第七章 イムペラトル 場面七 イムペラトル(四)

 その日は起床のラッパと共に、普段と何一つ変わらない規則正しい一日が始まったばかりだった。朝食を終えたばかりの司令官の天幕に、百人隊長の一人ケレルが、部下をひとり連れ、慌てた様子で入ってきた。ケレルはティベリウスに向けて敬礼し、抑えようとしてもなおはっきりと判る興奮した口調で言った。

「砦から誰か来ます」

「何名だ」

「三名です」

 ティベリウスは掛けていた簡易椅子から立ち上がり、天幕にいたムナティウス・プランクスと二人の部下を連れ、外に出た。夏の眩しい日差しが目を焼く。抜けるような青空が広がっていた。

 ティベリウスは主要通路(ウィア・プリンキパーリス)を通り、右正門から柵の外に出た。本営は少し高台に築かれている。強い陽光の下、騎馬姿の三つの人影がゆっくりとした速度でこちらへ進んでくるのが遠くに見えた。

「降伏の使者か」

 プランクスが言った。

「そう願うな」

 ティベリウスは答えた。彼らがここに辿り着くまでには、もう少し時間がかかるだろう。

「ケレル」

「はい」

「対面を望めば、通していい。だが決して油断はするな」

 ティベリウスは踵を返した。プランクスは少し後ろを歩きながら、軽く伸びをする。

「じきに熱い風呂で、夏の汚れをさっぱりと落とせるかね」

プランクスは優秀な軍人で、由緒正しい家柄の男だ。父が神君カエサル、アントニウスに仕えている。相当な富豪でもあり、私邸には贅を尽くした浴場があるらしい。妹はプランキナ(プランクス家の娘)と呼ばれ、グナエウス・ピソの妻だ。

「気が早いな」

 ティベリウスは苦笑したが、内心同じ気持ちだった。



          ※



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