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※先行公開です。
『ロザリア、ドレスはなるべく早目にたのむ』
「わかっているわよ、エリオット」
まったく。なにが悲しくて、長いこと片想いをしていたエリオットの彼女の花嫁衣装を作らなくちゃいけないのよ、なんて心の中で毒づいてみたくもなる。
くらげ島が崩壊して、新天地に越してきたわたくしは、謎の婚約、結婚ブームに巻き込まれて、寝る間も惜しんでドレス制作をつづけている。
ひとつには皇室制度が無くなったことによる自給自足の生活をしなければならなくなったことと、生活の変化により、想像していたよりもずっと多くのカップルが式を挙げたがっていること。
わたくしは元々その手の仕事は受けていた方だけれど、新天地でのドレスの値段はとてもいい仕事なの。
だから、相手が元恋敵だったユイニャン・セイロンのドレスだとしても、手を抜くわけにはいかないってわけ。
なにしろロイヤルミルクティの道化師ジェインまで式を挙げるとあって、周囲は騒然となったものよ。
「きちんと納期通りにお渡ししますから、気長に待っていてくださいな」
電話というものも使い慣れてきたけれど、耳元でエリオットの声を聞けば、片想いの傷がうすいてしまう。
まったく。みんなしてしあわせになるだなんて。
わたくしは新天地の裁縫工場で泊まり込みの仕事をつづけている。
「ロザリア様。どうかご無理はなさりませぬよう」
「ありがとう、ザック。せっかくだからそっちの布押さえていてもらえるかしら?」
わたくしは裾の広がったドレスの端を処理するために、執事のザックにドレスの本体を押さえてもらうことにした。
くらげ島にもミシンはあったけれど、ロックミシンというものはなかったから、慣れない作業で失敗することもあった。
だけど時々こうして元執事のザックがわたくしの手伝いをしてくれるから、なんだか安心しているの。
え? どうして皇室制度が無くなったのに執事が居るのかですって?
そんなの、ザックが選んだからに決まっているじゃない。
ザックに言わせると、執事ではなく秘書なのだとか。
その違いはよくわからないけれど、ドレスを縫う理由にはなる。
「お嬢様、これが済んだらお茶の支度をしてもよろしいでしょうか?」
そしてたびたびこうして堅苦しい言葉でわたくしをいらつかせる。
「いいわよ。でも、今時お茶なんていくらでも買えるじゃない?」
「わたくしがお嬢様のためにそうしたいからしているだけです。本日は紅茶にあうケーキも用意しておりますので」
わぁ、それは楽しみ。お茶なんてどこでも買える、なんて言ったけど。
本当はザックの淹れてくれた紅茶が一番おいしいし、ケーキも絶品なんだから。
そんなことを考えながら、かたかたミシンを走らせる。
ああ、ミシンのこの、無駄のない動きがとても好きだわ。
つづく




