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第57話 集いし力、今解き放て

 慎重に平原の手前まで進んで周囲を確認。

 まず先行部隊を組み、俺はトーマスから透明外套を借りて平原に出た。ハロルドとニルスが一緒だ。このメンバーなら魔法が使えて素早く動ける。


(だいぶ近づけたぞ)

「やっぱり苦戦してるみたい」


 便利な道具のおかげで敵に見つからず来れた。

 姿勢を低くしながら戦況を覗く。前を凝視したまま傍の2人と話す。


「周囲に人がいるから何か困ってるようです」

「バルフェロさん?」

「うん、なんでだろ」


 左側から聞こえるニルスの声音はどこか疑問形だ。

 反対の右からハロルドの声が続く。


「他2人も気になることを言ってるね」

「なんて?」


 少し間をおいてから再び彼が答える。


「完璧には聞き取れないが、アレは使えないのかとか」

「アレってなんだろ。誰かの持ち物かな」

「おそらく。所有者はロゥギルさんのようだが……」

「魔力が足りないとも言ってる。石の残量とか、魔法的な何かかも」


 言葉を濁された後で左から補足が入った。


(状況を考えたら武器かな。切り札とか)


 どうやら魔法が有効だという見解は正しいようだ。俺は2人に最適な場所を探そうと告げ、もう少し歩いてみる。そして適度な距離と配置にたどり着き――。


「ここにしよう。そっちの準備はいい」


 この時ばかりは顔を向けて問う。2人が頷くの認め、姿勢を正す。


(2人はエルフで得意属性は風。ならばっ)


 選んだら威力調整だ。こっちが強くないと属性が変化してしまう。


炎よ(フレイム)飛んで(フライアンド)爆ぜろ(エクスプロード)

 

 俺が炎塊を放つのと同時に風の魔法も飛ぶ。

 途中で両者が合わさり、更なる大火となり敵の巨躯にぶつかった。


「ブケケケェーッ」

「よし、当たった……っておわ!?」


 歓喜するが身を振り乱した魔物から火花が散る。

 一部がはね返って咄嗟に避けた。だが背中に熱を感じ慌てて外套を脱ぐ。他のも巻き添えで燃えてしまったようだ。急いで鎮火し戦場を睨む。

 巨大コカプアルと目が合う。僅かな沈黙の後、奴の双眸が怪しい輝きを放つ。


「危険な雰囲気だね」

「何か、仕掛けてくるよ」


 隣で緊迫した声音が上がった。俺も同じ気持ちだ。


「いったん退こう」


 早くと言いかけるのと同時、敵の嘴に禍々しい光が集まり打ち出される。

 避ける暇のない一瞬、ただ光を見つめるしかなくて。直撃の恐怖が瞼を閉ざそうとした。その視界に上と横から影が飛び込んでくる。


 ――ビュン、バチバチ。

(あの背中は! くっ、俺はまた)


 影の正体はバルフェロと錨だ。

 重量感のある鈍器を盾に光の壁が幾重にも広がる。光線が分断され、軌道を変えていく。


「いけない子達ですな。ご無事ですか」


 振り返る顔を見て、胸が締めつけられたように苦しい。

 でも弱気や悔いは後回し。俺は全身全霊を込めて言葉を紡いだ。


「ごめん。でも俺達だって戦える」


 一度口を閉じ、首を振ってもう一言。


「ううん、戦えるようにならなくちゃダメなんだ!」

「我々は魔法が使えます。後方支援だけでもやらせて下さい」


 隣に並び立つハロルドの声が続いた。ニルスからも熱意が伝わってくる。

 すると、それまで斧槍を手に前線を守っていた背中が言う。


「ここまで言うんだ。やらせてみよう」

「お前なぁ、そうやってすぐ絆されるんだから」

「でも魔法のことは承知みたいだよ」

「ぐっ」


 敵と応戦しながら会話する。2人の動きは息ぴったりだ。


「他の子達もいるみたいだし、アレ使えるんじゃない?」

「確かに魔力が足りねぇと言ったけどよ」


 ロゥギルは鎖を引き、錨の回収ついでに小型を薙ぎ払う。

 こっちにも数体向かってきて俺達は迎撃した。剣を振る傍らで会話の行方に耳を澄ませる。勝手に動き回っていいんだろうか。不安が過る中で、ひと際大きな声が響く。


「ああ、わかったよ。爺さん悪ぃな」

「いいえ。私には構わずどうぞ」

「サンキュ。ガキども、力を貸してくれ!」

「ロゥギルさん」


 俺は頼ってくれた嬉しさのまま言った。ロゥギルは空を指さして言う。


「とっておきを使う。ありったけの魔法を天に捧げろ」

「では戦士の皆で詠唱の時を稼ぎましょう」


 宜しいですな、と茂みの方角にバルフェロが目配せする。

 威勢の返事がして、待機組が一斉に駆け寄ってきた。学生が相手をするのは小型、引率者は巨大コカプアル。各々が魔法使いを庇う陣形をとる。


「大きな獲物」


 背筋が震えるようなフェロウの声。反射的にみると舌なめずりしていた。


(まずい。アイツが飛び出す)

「今日は譲れ。代わりに味方守りきったら、今度相手してやる」

「いいよ、約束。じゃあ行くぜぇ」


 予測したかの如く釘を刺されたのに楽しそうだ。

 ほっと胸を撫でおろし、気持ちを切り替え詠唱態勢に入った。何を使おう、と思考を巡らす。今回は上級者を含めた多くの味方がいる。


(この面子なら絶対時間を稼いでくれる)


 だから普段より少し難しい魔法を選ぶ。呼吸を整え、集中した。


「暗雲より来る雷、我がもとに」


 まず前文を唱え、渦巻く暗雲に手をかざす。

 落雷が振れる感触を手から全身に感じ、落ち着いて内に留める。

 同時に背後や隣で呪文詠唱が重なって耳に届く。


「集いし蒼流、器を潤い満たす。器は珠となりて我が手より解き放つ」

『吹き抜けし疾風よ、ここに集え。我らが魔によって編み、束ね、暴風の矢と成せ』


 ニーアの済んだ声と、エルフコンビの同時詠唱だ。

 だが、これらに紛れ少女の声で紡がれる呪文が異彩を放つ。


甘露の(ヴィジィヨーズヴィ)楽園に(ニスホーデック)降り来る星(ブライニクターラ)根源たるは(イエヴォプレス)、光と焔(ハッズィニエシェイ)の炉に(ブレイスティズィニ)くべられ(ウェスポイニニョン)し大地の(ネイフピェチェス)恵みなり(エペギプラン)


 全く知らない言葉だった。おかげで余計に引っ張られそうになる。

 脳内を貫いていく音に俺は抗う。気を抜くと魔法が失敗してしまうから。しかも、今使おうとしている奴は失敗したら結構痛い。


「宿りし力は束なり強靭な矛となる」


 唱えながら力を腕、手へと再び集め、空へ向け一気に打ち出す。

 飛翔していく雷光は空中で矛へと変じた。特大の水珠や暴風の矢が周囲に並ぶ。更に仰ぎみた天空が暖色に染まり、そこから大小無数の飴が降り注ぐ。


「上出来だ。あとは任せな」


 誰の声かは聞くまでもない。空を指し示したあの人だ。

 複数の現象が頭上を彩る中、1つの透明な魔石が放られる。色彩豊かな魔法が石に染み込んでいく。


 すべてを呑み込み、七色に輝く石がロゥギルの手に落ちた。

 素早く右足のホルスターから引き抜いた銃に装填。側面のつまみを回し、敵に向け構える。


(お願い。うまくいって)


 アルフが射線に入らぬよう敵へ向かっていく。

 バルフェロが炎と光の檻を出現させ、暴れる巨躯を中に閉じ込めた。すかさずアルフが円形の檻を凄まじい気迫で打ち上げる。


「今だ、ロゥギル」

「ナイスアシスト。――ぶっ飛びやがれ!!」


 銃口から放たれる強烈な魔力の弾丸。

 太い一線は長く尾を引き敵を穿つ。直撃を受け、魔物は跡形もなく消し飛んだ。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 最も強大な脅威が消え、集まっていた小型達の様子が変わる。

 四散していく姿に次の行動を躊躇う。けれど引率者から全体に声が掛かる。


「深追いはしなくていい」

「特に山側へ逃げた奴はな」

「ええ、山は本来の生息地ですから。人家に被害を出す個体だけに致しましょう」

「つーワケで手分けだ。行くぞ」


 激戦の後とは思えない、落ち着いた調子で先を促された。

 皆と揃って俺も腹に力を込め返事をする。疲労はあるがまだ終われない。気が緩むのを必死に堪え、再びチーム毎に分かれて動き出す。


(もう休む暇もないな)


 心の中ではつい愚痴が零れてしまう。でも被害を抑えるのが最優先だ。

 王都方面へと逃げていく個体を追って走る。


「やっぱり速い」

「このままじゃ追いつけないにゃ」

「わ、私も、これ以上速くは走れません」

「うぬ……止むを得ませんな」

「バルフェロさん?」


 並走してた人影が足を緩めたのを怪訝に思う。

 どんどん後ろに下がっていくのを目で追い、俺の足も速度を落とし始めた時。

 すぐ横に並ぶ白い光沢が目に入った。全身に陽光を浴び、胴長の身体をした白龍。思わず見とれてしまうくらい綺麗だ。


「お乗り下さい」

「はい。トゥワ、ニーアを頼む」

「了解。ミャーに掴まるにゃ」

「お願いします」


 トゥワがニーアを抱えて背に飛び乗る。俺も遅れず白龍に飛び移った。

 鱗に覆われた身体や滑りやすい。だから必然的に頭部の角や鬣を掴む。平原が徐々に遠ざかるのを眼下に見つめた。風が肌に打ちつけ、あまりの強さに俺は目を細める。


(うわぁ、あっという間に近くまで来ちゃった)


 風が当たるのを煩わしく感じながら地上を注視した。

 王都を守る結界のすぐ外側に複数の敵影を発見。俺は指差して声を張りあげる。


「いた、あそこっ」

「ギリギリまで降下します」

「お願い。皆、飛び降りるよ!」

「はい」

「わかったにゃ」


 大声で最低限のやり取りをし近づいて行く。

 一定の高さまで下がった所で意を決して飛び降りた。風の魔法で着地を補助しつつ、落下の勢いそのままに剣を突き刺す。まず1体を倒し、剣を吹きぬいて次に向かう。


 見事な体術でトゥワが叩きのめし、ニーアは魔法で援護する。

 両者の間で前に出たり、下がったりして残党を討伐していった。


「ブ、ケェ……」


 最後の1体がついに倒れる。念のために辺りを確認するが敵影はなし。


「終わったぁ」

「皆様、お疲れ様です」


 いつの間にかバルフェロは人型に戻っていた。


「さすがのミャーもへとへとにゃ」

「そうですね。今日はもう引き上げませんか」

「うん、そうしよう」


 仲間の提案に頷き、後始末をしてから帰路につく。

 隣にはニーアが並んで歩いていた。そして前を行くトゥワとバルフェロの会話が聞こえてくる。


「さっきの姿、とても強そうだったにゃ」

「お褒め頂きありがとうございます」

「でも、なんでアレで戦わなかったのにゃ」


 疑問を投げかける彼女に、老爺の穏やかな声は笑っていた。


「あちらの姿で陸戦は難しいのです」

「うーん。そういうもんなのかにゃあ」

(絶対難しいってだけじゃない)


 母さんほどじゃないけど白龍の姿は大きい。

 今頃、町では騒ぎになっているかもしれなかった。大混乱になっていなければいいと思う。それに困るのは本人だけじゃない可能性だってある。


 ――母さんが変身すると後が大変なんだよ。


 いつだったか、父さんが言っていた記憶が脳裏に蘇る。

 ずっと前、ふとした疑問から龍の姿が見たいと頼んだ時も……。


 ――見せるのはいいけど、場所。場所考えてね!


 すんなりと思い出せる父さんの言葉の数々。あの時は凄い気迫だった。

 惨状を直接見たわけじゃないが、想像しただけで苦笑いが浮かんでしまう。

 人々の賑わいが近づく道中で、ようやく強敵を打ち倒した実感が戻ってくる。奥底で静かに興奮する胸を抱き、激動の1日が終わった。

 詠唱呪文が決まらなさ過ぎて寄り道してしました。

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