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王子な姫君の国王救出物語【水晶戦記】  作者: 本丸 ゆう
第二章 メイダール大学街
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第四話 黄金の本の首飾り

「姫君、いけません! 陛下、姫君を巻き込んだのは私です。どうか、姫君はご容赦下さい!」


 マールは王の怒りを、一人で被るつもりでいる。


「生きて助ける方法か……、そんなものがあればな。マール、王立図書館の極秘文書の存在を、なぜそなたが知っている?」

「私は……」


 薬師は言葉に詰まった。


「そなたは国王軍に入る前、カドル侯爵のベイデル家に仕えていた薬師と聞いている。ペイン・ベイデル候はブライデイン陥落の前に、アドランによって暗殺されたな」

「はい。あの頃、私は成人したばかりで、薬師見習いとして師の指示に従って行動していました。ただ……」

「ただ?」

「師はおそらく密偵です。誰かの指示で隠密行動をしていた。私は疑問を持ちながら、その手伝いをしたのです」

「師の名は?」

「偽名だと思いますが……、アドラン・ブライン」

「アドラン? 魔王と同じ名? だから候に仕えていた頃の話を、伏せていたのか?」

「申し訳ありません」


 王は考え込むように、彼を見る。


「師はどうなった?」

「判りません。ベイデル候の館が襲撃された夜、火事で亡くなられたものと……。私は辛うじて生き延びましたが、大火傷を負い生死を彷徨いました。その後はお会いしておりません」

「十六年前か……、罠かもしれぬ。私は一部の書物の避難は命じたが、極秘文書の避難等命じておらぬ」

「え?」

「数の多い極秘な物を外に持ち出すより、その場で自然消滅させた方が極秘に出来る。私ならそう考える。実際今も王立図書館は失われてはおらぬ、極秘文書類もそのままある。失われたのは人だけだ」

「では、あれは? 私がここに運び込んだ物は、一体……」


 王は(ひざまず)き最敬礼をするセイゲル教授を立たせ、無理をするなと告げた。


「その書箱を開けてはくれぬか? それとも、私の許可証が必要かな?」

「とんでもございません。今すぐ、ご案内致します」


 教授は部屋の奥の扉を開けた。そこは上階へ続く階段へとつながっている。僕はセルジン王に続いて、壁沿いに曲がった三階への階段を上る。

 途中から何か違和感を覚えた。それは《王族》に会ったような強烈な存在感、誰かの思考が上階に存在している、そんな気配だ。


「感じ取れるか?」


 王が(ささや)き、僕は(うなづ)く。同じ気配を感じ取っているマールは、青ざめた顔で呻くように言う。


「誰か、上にいるのではありませんか?」

「《王族》がいるのか?」

「……まさか、魔王では?」


 マールのその言葉に近衛騎士隊長であるトキは、数名を先発として上階へ上らせた。上階で作業をしていた者達が何事かと騒ぎ、それを制する騎士達の声が響く。セイゲル教授は痛む足を押して、必死に階段を上っているがやはり遅い。僕は彼の腰を横から持って支えた。


「おお、優しい姫君、ありがとうございます」

「ベルン長官ほどの力はありませんが、代わりと思ってください」


 僕は気さくに笑って答え、教授と共に三階に辿り着く。

 窓は風を通すための細長いものが二か所に付いていて、柔らかい光をもたらす。壁一面の棚に分類整理された巻物と、中央の棚が仕切りのようになり、多くの書箱が置かれていた。

 戸惑っている三人の司書達に、教授が下に降りるよう声をかけ、彼等は従う。


 マールが運び込んだ極秘文書を収めた書箱は、仕切りの向こう側にあると教授は教えた。仕切りには扉があり、教授が鍵の束をジャラつかせ、大きな錠前に合う鍵を探し始める。

 気配はその扉の向こうにある。

 何が飛び出すか緊張しながら見守るうちに、ガチャリと錠前の開く音がした。


 王は僕を庇うように前に立ったが、開いた扉から何も飛び出してこなかった。近衛達が踏み込んだ後、皆が入る。

 そこにも二つの窓があり、壁沿いに積み上げられた書箱を優しく照らしていた。埃に埋もれた床は、長年も誰も立ち入っていない証拠だ。


「これです、私が運んだ物は」


 書箱は全部で三箱あった。いずれも豪華な浮彫が施してあり、頑丈そうな鍵が掛けてある。王と僕はそれには目もくれず、対面にある古びた一つの書箱を見ていた。鍵は掛かっていないが、簡単には近づけそうもない。

 《王族》の気配は、そこにあった。


「エアリス、手を」


 セルジン王が左手を僕に差し出し、意図が掴めないまま僕は右手を王の手に乗せた。二人は向き合い、王の誘導により組み合わせた手を、古びた書箱に向ける。


「自分の手を針の先端だと思い、布に穴を開ける事を強く思い起こせ」


 僕はその通りにした。すると、まるで雷が鳴るような音が室内に響き渡り、周りの騎士達を驚かせる。


「何の音だ?」

「結界が破れた音だ、害はない」


 王は皆を安心させるように、静かに微笑む。


「教授、これは何時頃から、ここにあった?」

「私には判りませんが、これらは皆《王族》に関わる物と聞いております。おそらく記録が残されているはずです」


 結界が破られた後、《王族》の存在感は消えた。王は古い書箱の蓋を開けると、中には古布に包まれた何かがあった。取り出し布を開き、王が手にしたのは首飾りだ。



 それは黄金に輝く本の形をしていた。



「エアリス姫以外は、階下に降りよ。トキ、階下の扉のこちら側に近衛騎士を配置させ、何か異変をあった時はすぐに駆け付けよ。それ以外は教授の部屋へ戻れ」

「はっ」


 トキの指示で全員が階下に降り、王と僕の二人だけになった。


「それは何ですか? さっきの音……、結界?」


 父の館でも大きな音がした後、テオフィルスがそう言ったのを思い出した。


「他人が近づけぬように、魔法で幕が張ってあった。《王族》以外、あの結界は破れぬ。これも《王族》以外見る事の出来ぬ、昔から玩具として高官達の目を欺いてきた伝達方法だ」

「《王族》の気配は……、結界?」

「そう、ここに《王族》を呼び寄せるための結界だ。何が隠されているかは見てみないと判らない、罠かもしれぬ。危ないと感じた時は外へ出て、トキに知らせるのだ」


 僕は頷いた。

 王は僕に黄金の本の首飾りを渡す。


「解除方法を教える、いずれそなたも使う日が来るかもしれぬ。まずは「開け」と強く念じながら息を吹きかける」


 僕はその通り、右手に持った小さな本の首飾りに息を吹きかけた。すると首飾りの黄金は消え失せ、掌より大きい本物の本が出現する。驚きに目を見開き、危うく本を落としそうになった。


「次に「伝えよ」と念じながら、本を開く」


 その通りにする。

 今度は本から煙のようなものが立ち上る。


「ここで「映せ」と念じ、本を前へ投げる」


 本を僕の前に床に放った。

 そして、それは現れた。






 見た事のない長い立派な長衣に王冠を被った姿は、誰が見ても国王と判る。年齢は三十代半ばだろうか、苦悩に満ちた顔はその人物を老けさせている。


《我は第十三代エステラーン国王、セイエン・ローウェル・ベイデル。後世の《王族》のために、この記録を残す》


 男は言った。

 セルジン王は衝撃を受け、古の王の顔を凝視する。「ベイデル」は侯爵家の姓名だ、《王族》であるはずがない。


《今現在、我が弟マルシオンが水晶玉の中に入り、イミル王国からの侵略を阻止した。戦いは終わったが、《ソムレキアの宝剣の主》の我が娘ロレアーヌが亡くなった》


 宝剣の主の死!

 僕は恐ろしさのあまり、王にしがみ付いた。


《マルシオンは魔物のように変化し、我が国は過去最悪の事態を迎えている。翼の生えた魔物が発生し、王都メイダールの人々を喰らい、それと同時に山系の竜が現れた。竜を追い払う、〈ありえざる者達〉がどこにもいない!》


 苦悩する古の王の悲嘆が、僕の脳裏にこびり付く。


《出来ればマルシオンを元に戻したいが、方法が見つからぬ!》


 セルジン王は無意識に、僕を抱きしめた。


《後世の《王族》に警告する。もし我が国が存続すればの話だが、これを見た者は今すぐ水晶玉を海中深くに沈めよ。《王族》は絶対あれに触れてはならぬ! 国の守りだが、臣下や国民が何と言おうと、すぐに処分せよ!》


 そう言ってセイエン王は消えた。






 あまりの恐ろしさに、震えが止まらない。

 二人は声を出す事も出来ず、ただ抱き合ったままお互いが落ち着くのを待った。






 王が静かな声で囁く。


「オリアンナ……、そなたは死なないでくれ」


 僕は小さく頷いた。






 しばらくして冷静さが戻った時、多くの疑問が沸き起こる。山系の竜と古の王は言っていたが、アルマレークの竜が攻めてきたのだろうか。その時代に、アルマレーク共和国は存在したのか?


 竜イリを思い出す。

 可愛い従順なイリが人を襲う姿等、想像も出来ない。


 それから竜を追い払う、〈ありえざる者達〉?


 聞いた事も無い存在だ。何より宝剣の主が亡くなった後、水晶玉に捕らわれた者はどうなったのだろう。今エステラーン王国が存在しているという事は、危機を回避できたという事だ。


 《ソムレキアの宝剣》の魔力を借りずに、どうやって?


 忙しく動き回る騎士達を見ながら、僕は考えに沈み動く事も出来なかった。エランが心配そうに覗き込む。


「大丈夫? 顔色が悪いよ」


 僕は無理に作り笑いをして頷く。


 セルジン王は、マールが運び込んだ書箱三箱を開けようとしていた。セイゲル教授が多くの鍵を試している。マールは対面にある古びた書箱を覗き込んでいた。書箱の蓋にベイデル家の紋章が描かれ、埃に塗れ薄れたそれは魔王によって滅ぼされた侯爵家の運命そのものに見える。彼は深い溜息を吐いた。


「開きましたよ、国王陛下」


 一つ目の箱が開いた。覗き込むセルジン王の前で、開かれたそれは空だ。マールは狼狽えた。


「そんな…、私は確かにこの目で見ました。この中には書物や、巻物、それから宝飾類が入っておりました。盗まれたのか?」

「そんな事は、ありえません! ここは厳重に管理されています。盗難など絶対にありえない」

「マール、入っていた物の中に、これと同じ物はあったか?」


 王は彼の目の前に、黄金の本の首飾りを指し出した。


「……ありました。こんな宝のような玩具がなぜここに入っているのか、侯爵様が不思議がっておられましたから」

「そうか。では是が非でも、見つけ出さねばならぬ。他の二つの箱は?」


 他も鍵を見つけ出し開かれたが、同様に空だった。マールは落胆し、教授はありえないと喚いた。


 王はこの図書館全体で《王族》に関わる記録がないか丹念に確認した後、図書館から皆を引き揚げさせた。学生達の勉強の邪魔をしたくなかったからだ。


 僕は外に出た。

 薄ら霧に覆われた街は、まるで僕の心の内と同じく先が見えず掴めそうで掴めない、不安で身も心も重く沈み込ませる……、そんな風に見えた。

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