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第二十七話 レント城塞の戦い 

 馬上のエランは咄嗟に(あぶみ)から片足を外し、腰を上げて半変化になったザーリの頭を蹴り、馬から遠ざける。側に来たトキが、ザーリに何かを投げつけると、一瞬で燃え上がり跡形も無く消えた。


「マールの武器は、完成したようだな。あっけなさ過ぎて、つまらん!」


 まるで遊んでいるように、何かの革袋を手にしている。

 エランは気分が悪くなり、顔を背けた。ザーリには嫌な思いばかりさせられてきた。大嫌いな奴の死に同情はしたくない。


 それなのに……、何だろう、この不快感。


「なぜ、切らなかった? 顔見知りでも、屍食鬼に情けは無用だ! 奴等に喰われたくなければな」

「…………」


 トキは厳しい顔付きで、青ざめたエランの顔を睨みつける。


「短剣投げは得意か?」

「はい、得意です」

「では、これをやる。革袋を敵に投げて、この短剣(もど)きで突き刺せ。一つしか無いから、窮地の時に使えよ」


 彼はそう言って次の標的を探しながら、第二城門に向って前進していった。

 渡された革袋を手にしてエランは、ザーリの消えた跡に視線を戻し、トキの言葉を復唱した。


「屍食鬼に、情けは無用なんだ」




 第二城門に近づくにつれて、半変化が数を増す。その中にハラルドの手下が何人も含まれているのを、エランは確認した。


 友人を皆、犠牲にしたのか?


 そう思うと、ますます気分が悪くなる。半変化はただ第二城門に群がり、何かを求めるように上に飛ぼうとしている。自警団が彼等に襲いかかり、城門の兵達も上から火矢で半変化を殺す。上空には屍食鬼が飛び交い、多くの火矢が城門塔から放たれている。人々は矢に当たる事を恐れず、果敢に目の前の敵と戦っていた。


「火を放て! 燃やさないと、死なないぞ」


 国王軍兵の叫びに従い、あちこちで火の手が上がる。血を流し倒れる者達に足を取られながら、かつての隣人だった者が屍食鬼に変わる前に、皆が必死に半変化の殲滅(せんめつ)を目指す。


 半変化は数を減らしながらも、徐々に変化が進み屍食鬼として飛ぶ者達が現れた。長く伸びた黒い太い首、せり出した獣じみた顎に、口から出た牙は隠す事が出来ない程、凶暴で血に飢えて見える。耳を(つんざ)く奇声を発し、身体から黒い渦が沸き起こるのがエランには見える。


「国王軍に任せろ!」


 屍食鬼に完全変化し飢えた獣となって襲い来る。屍食鬼相手に戦闘の素人が敵う訳もなく、人々は逃げ惑い騎士達が対峙する。


「火矢を放て!」


 一斉に火矢が放たれ、上空の屍食鬼が燃え上がる。長く尖った爪で急所を狙ってくる屍食鬼に、一人の騎士が慣れた(けん)(さば)きでかわしながら腹を切り裂く。緑の粘液が飛び散るが浴びても身体に害が出ないのは、セルジン王の魔力を秘めた護符のおかげだ。腹を裂かれ動きの鈍った屍食鬼に、瞬時に火矢が襲う。


「メリマン隊長! 奴等、第二城門塔内に入り込むつもりです」


 高所にある兵士用入り口に、屍食鬼が群がっている。別の屍食鬼を殺したばかりのトキは、即座に大声で指示を出す。王の近衛騎士は精鋭揃い、守るべき王がいない時は、戦場で屍食鬼の殲滅に従事する。


「持ち場を離れるな! レント騎士隊の戦い方がある」 


 第二城門からラッパが鳴らされ、城門近くにいる者達が撤退する。城門の兵士用入り口に群がる屍食鬼は数を増やし、燃え上がる炎に照らされ、そこだけ蠢く黒い染みのように見えた。それが突如、落下し始めたのだ。


 塔の頂上に設置された板囲いから、熱せられた油の入った袋が投げられ屍食鬼を直撃。次の瞬間、近くの矢狭間から火矢が放たれる。屍食鬼達は爆発的に燃え上がった。


 目の端でそれを捕えながら、トキはエランを呼ぶ。


「半変化を何体殺した?」


 何体という死体を数えるような言葉に、元人間だと思うとエランはまた気分が悪くなる。


「三体です」

「三体か。未成年の初陣にしてはまあまあか。ここの屍食鬼も数が減ってきた。上空は、オーリン様が追い払ったんだろう」


 上空に(まばら)らにいる屍食鬼の黒い影のその上に、光り輝く何かが見えた。竜の真上が光っている。あれが《ソムレキアの宝剣》の輝きなのだろう。


「今から第三城門内へ行くが、お前は残れ。向こうは隠れる場所が無い」

「屍食鬼なら、四体()りました。僕も行きます!」


 どう考えても初心者扱いに、エランはムッとしながら答えた。

 トキは驚き、面白がるように彼を見る。


「合計七体か。やるじゃないか、お坊ちゃんかと思っていたのに」

「十二の時から特例で魔物狩りに出ているんです。屍食鬼は魔物に見えて、半変化より殺りやすい」


 エランは不敵に笑った。






 第三城壁内は赤く染まっていた。炎の赤、血の赤、そして国王軍の長衣の赤。城門塔から第三城門内の様子を見ていた大将アレイン・グレンフィードは、不思議な光景に出くわしていた。戦場の真ん中に戦衣を身に着けない無防備な姿で、一人の青年がポツンと立っている。


「何だ、あの若者は?」


 その青年はどう見ても、自分を睨みつけている。


 断続的に鳴り響く振動は元大型草食獣だった魔物オオガが、城壁の外から亀裂を破るために体当たりしている音だ。弩弓の矢ではまるで効かず、投石器で狙いを定めて倒すが、数が多く過ぎて間に合わない。亀裂のある城壁周りの水掘りでオオガが死んだため、死体が堀を埋め水掘りは効果を失った。


「城壁を守れ!」


 亀裂は広がり始めている。破られるのは時間の問題だ。城壁外の兵にも死者が出て、屍食鬼が屍肉に群がっている。屍食鬼に変化しない者を、屍肉として貪り食うのだ。


 兵士達は習慣のように予め遺体に油を撒き、屍食鬼が群がったところで火矢を入り、屍食鬼ごと弔いのように遺体を焼く。戦友が喰われる事を兵達は何より嫌い、いつの間にかそれは暗黙の約束事となった。


 アレインはあちこちで上がる弔いの火を冷静に見ながらも、その青年が気になって仕方が無い。首の後ろの毛が逆立つような危機感が、魔王と対峙した時の感覚を甦らせる。


 〈契約者〉か、王が不在な時に厄介だな。


 今まで幾度となく、〈契約者〉に国王軍は悩まされてきた。事前にトキから王の不在と、竜を撃つなと連絡を受けている。困難な状況でありながら、彼の顔は口角を上げ微笑む。アレインは危機的な状況をも楽しめる、将として冷静な男だ。


「射手、あの若者を撃て」


 近くにいたレント領兵士に指示を与える。兵士は矢を番え、狙いを定めるが、戸惑い弓矢を下ろした。


「あれはハラルド様です。ご領主の子息……、撃てません」


 他の兵達も、領主の息子を確認し動揺した。アレインはその場を制するように、わざと大きな声を発する。


「なるほど、魔王が取りそうな手だ。奴が屍食鬼を操っているんだぞ、君はレント領が滅ぼされてもいいのか?」


 兵士は青ざめた顔をハラルドに向けた。


「ハラルド・ボガードは、魔王と取引した〈契約者〉だ。魔力を使う強敵であり、屍食鬼を呼び寄せる厄介な存在だ、甘く見るな! レント領の兵士達、騎士達、この城塞を守る事に命を懸けろ! 城門内側射手、ハラルドに掃射!」


 若き国王軍の大将の命令に、レント領の兵士達は迷いを捨て一斉に矢を放つ。〈契約者〉ハラルドは不気味に笑う。


『レント騎士隊、僕に歯向かうな!』


 矢はハラルドに刺さる直前に、弾かれ地に落ちた。それと同時に矢を射たレント騎士隊兵士の手に、目に見える黒い渦が現れる。


「モラスの騎士、防御が甘い!」 


 アレインの言葉に、大将付きのモラスの騎士が剣を上げ、魔力を強化し黒い渦を消した。モラスの騎士とは魔力に対する感に優れた騎士を選りすぐり、王が鍛え上げた対魔防の戦士達だ。敵の魔法防御の隙を突き攻撃、また敵の魔法を事前に察知し防御する。


 射手達はようやくハラルドが人間ではない事を認識する。アレインは側近に指示を出す。


「モラスの騎士第二隊と第三隊で、あの敵の(かしら)を討て!」


 側近は伝令に命じ、彼等は迅速に行動した。魔王と契約者を専門に攻撃するモラス騎士隊は、城門の歩廊(ほろう)で兵士達の防御を手伝いながら出番を待っていた。


「やっと来たようね、噂に聞く領主の馬鹿息子?」 

「しばらく経っているから、強くなっているだろうね」

「お手並み拝見といくか」


 朱色の特徴のある服を身に着け、同じ剣を持つ彼等は、国王軍の中でも特別視されていた。 






 エランは王の近衛騎士達と共に、第二城門塔に入ろうとしていた。兵士用出入り口から縄梯子が下され、近衛騎士達の後に縄梯子に取り付く。油が飛び散り火矢が飛ぶ危険な中を、数が減ったとはいえ屍食鬼を避けながら、梯子を登るのは勇気がいった。


「うわっ」


 火矢を受けて墜落した屍食鬼が、彼の真下で燃え上がる。もう少しで縄梯子の一番下に、火が燃え移りそうだ。


「大丈夫か、エラン」

「大丈夫です!」


 慌てて縄梯子を上った。高所にある兵士用出入り口は狭く、大人の男が屈んで何とか潜り込む程の幅しかない。皆が登り終えた後、すぐに重い扉が閉められ、閂が掛けられた。ここを突破されれば、城塞防護の要の一つを失う事から、警備は厳重だ。


 戦う兵士達の間をすり抜け、階下への狭い階段を降り、城門裏側にある戸口から第三城門内へ抜けた。この戸口も高い位置にある。扉を細く開けた途端、屍食鬼の飛び交う姿が目に入り、皆警戒しながら地面へ飛び降りた。


 トキの言った通り、第三城門内は農地で隠れる場所が少ない。エランは飛び降りて、すぐ剣を抜いた。第二城門内に比べて、国王軍の数が圧倒的に多い。あちこちの板囲いから火が出て、国王軍の兵士が必死に消火している。


 そして屍食鬼の数も、第三城壁内の上空を埋め尽くしているようにエランには見えた。察したトキは笑いながら言う。


「まだ少ない方だ。空が見える」


 言われてみれば屍食鬼の飛び交う間に、綺麗な星空が見えた。月が先程より、ずいぶん西に移動していて夜明けが近い。


「エラン、ここは危険だ。絶対に、私から離れるな」

「はい!」


 トキの頭上すれすれに屍食鬼が飛んで行く。彼は手にした剣を立て、すぐに切りかかれる体勢で移動する。エランと近衛騎士達も屍食鬼と交戦しながら、後に続いた。


 

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