≪二章≫衝動 ③
周囲を舞っていた木の葉が命令に従って形状を変化させる。
開いていた葉は先端を重ねて針のように鋭く尖り、十六発もの弾丸と化し、一斉に掃射された。
「――――シッ!」
それら飛び交う弾丸を、秋夜は背後にいる冬弥を守りながらすべて叩き斬っていく。
カエデの攻撃が音速を誇る銃撃だとするならば、秋夜の技は神速を誇る銀の斬戟に他ならない。
冬弥は指一本動かせずにいた。
けれども今度は純粋な恐れからではなく、眼前の光景の気高さに魅入られていた。
そこでは二人の男が殺し合っている。
一人は右手に刀をたずさえ、眼前に飛び交うモノを切り払っている。
片やその相手は、右腕を振るうたびに周囲の木の葉を従え、ソレらを相手に放っている。
(なんだ……これは……)
逃げるのが賢明だ。
ここにいても足手まといにしかならないのは明白だ。
秋夜は逃げろと言った。ならばそれに従うのが正しいに決まっている。
それでも、
(秋兄を、助けないと……)
常時であれば目視できない弾丸の群を視認し、冬弥の心に火が灯る。
体内で練った魔力を放出。
肉体の反応速度を上昇させる。
状況はいまだに飲み込めていないながらに、秋夜がカエデから冬弥を守ろうとしていることだけは理解できていた。
(秋兄は俺を助けてくれたんだ。だったら、今度は俺が秋兄を助ける番だろうが!)
ならば立ち上がれと、震える脚を叩いて喝をいれる。
恐怖に凍った心に火を灯す。
足手まといと呼ばれようとも、家族(恩人)を見捨てた卑怯者に成り下がるつもりは毛頭ない。
「ククク、案外もつな」
カエデが愉快げに語る。周囲には木の葉が無限の如く舞っている。
「…………」
一方の秋夜は答える余裕がない。
わずかに肩を上下させて、次の弾丸に備える。
現状、それしか対抗する方法がない。
このままでは刻一刻と体力が削られていく。
いくら鬼との混血といえども、無限の力を有しているわけでもない。
同等の力を持つもの同士が戦えば、たった一%の弱みにつけいられたほうが敗北するのは必定。
(クソッ、どうする)
打開策は浮かばない。
たった一言の魔術詠唱する隙さえ皆無。
一瞬でも呼吸を乱せば瞬時に蜂の巣にされる。
どうすればいい、と同じ問いを自身の中で繰り返すことしかできない。その間も、敵は惜しみなく弾丸を連射している。
逃げ場はない。
弾丸は左右にも無差別に発射され、冬弥も動ける状況ではない。
(ここが墓場か……!)
そう覚悟を決めたとき、
「うおおおおおおお!」
わずかな弾幕の隙間をぬって、秋夜の背後から影が躍りでた。
「ッ! 冬弥!?」
「ぬ?」
常人の目ではとらえられないほどの速度で特攻した冬弥を狙って、秋夜に狙いを定めていた弾丸の一部が穂先を変える。
自動で放たれた呪弾は冬弥の頬をかすめたが、そのくらいでは冬弥の足を止めるには至らない。
「ッラアッ!」
気合一閃。
少年の懐にすべりこんだ冬弥は、握り固めた右拳を全力で叩きこむ。
ゴッと鈍い音がした。
完全に虚を突いた一撃。
少年に防御する暇はなかった。
「……このオレに牙を剥くか」
しかし少年の表情に苦痛はない。
むしろ嘲りの笑みだけが浮かんでいる。
確かに少年は防御できなかった。
だが、主の危機を自動的に感知する木の葉が、冬弥の拳を妨げていた。
「不愉快だ。下郎」
ズリュッ…………ドプッ…………
次回は11/19
23:00投稿予定です。




