テレビ塔
オムライスでお腹を満たした私たちは第2のポイントへと向かっていた。
なんとなくだけど歩いていてどこに向かっているのか分かってきた。
外は寒いから地下道を歩いているんだけど、北海道のオタクならこの道順だけでどこに向かっているのか分かってしまう。
私もオタクの端くれとして、あのお店自体は明子とよく言っていたのでこの道は知っていた。
「私どこに行くかわかった」
「さすが吉野。ここは地下から行こうとしたらよく通るもんな」
こんな意味の無い会話ばっかりかもしれないけど、手をつないで歩いているだけで楽しい。
長谷川の声を聞いているといつもより弾んでいるので、きっと同じような気持ちなのだろう。
てくてくと地下を歩いて、地上に出るための階段を登り、目的の場所へと歩いていく。
「到着だ」
「やっぱりここだったか」
目の前には青い看板のアニメショップがある。
しかしなかなか店の中に入ろうとしない長谷川。
横目で長谷川の顔を見て、私はピンときた。
「ねぇ長谷川?」
「なんだ?」
「ここをデートのスポットとして選ぶってどうなの?」
「まぁ俺も思ったんだ。でも正直、吉野とどこに行けばいいのかわからなかったから、オタクっぽいところを選んでしまった。こんな俺を許してくれ」
ここまで考えてくれた長谷川を叱ることはできない。
かと言って他に行きたいところがあったわけでもないので文句は言えない。
あ、そうだ!
「テレビ塔登ってみない?」
「テレビ塔?」
テレビ塔とは札幌の街中を突っ切っている縦長の大きな公園である、大通公園の一丁目に存在している電波塔である。
いつの間にか存在していたゆるキャラ(?)の『テレビ父さん』のモデルとなった建物だ。
中からエレベーターで登ることが出来て、展望台まで登ることができる。
私は登ったことが無かったので登ってみようかと思ったわけだ。
「長谷川は登ったことある?」
「いや、地元民はあんまり登らないだろ」
「だよねー。でもあえて登るのがデートっぽくていいじゃん!」
そうだな、と言ってテレビ塔へと足を向ける。
そう遠くない距離を歩いてテレビ塔の真下に到着。
「私、ここに立ったの初めてかも」
「俺も初めてだな」
テレビ塔は観光スポットにもなっているので、お土産を売っている場所がある。
そこにはこれでもかというぐらいのテレビ父さんのグッズ売られていた。
「こいつって人気なのか?」
「私に聞かれても・・・多分onちゃんとかのほうが人気あるんじゃない?」
「そうだよな。おっと・・・この話はここまでにしよう」
「・・・そうだね」
店番をしているらしいおばちゃんが凄い目つきでこちらを睨んでいた。
私たちはエレベーターの近くで展望台へと行ける券を購入して上を目指した。
こーゆーところの値段って地味に高いよね。
そして展望台に到着。
「「うおー!」」
初めて見たテレビ塔の光景に、思わず感嘆の声を上げる私たち。
人間ってなんで高いところに来るとテンションが上がるんだろう?
「吉野!ここ地上から90Mもあるらしいぞ!」
長谷川が説明文を読みながら私を呼ぶ。
「「ビミョー!」」
思わずハモってしまい、二人して笑う。
ホントになんで人間って高いところに来ると以下略。
「他に誰も居ないから貸切みたいだな!」
こんなにテンションが高いのにはもう一つ理由があった。
私達以外誰もいないのである。
これだけ開放的な状況だと、テンションが上がるのもうなずける。
「なぁ。吉野の家はあのへんか?」
「いや、ここからじゃ見えないでしょ」
「だいたいだよ。俺の家はあのへんだ」
長谷川は指をさしているが、私の家と方角が変わらないので、さっきと同じ方向をさしているように見える。
その長谷川がからだをすこし動かして指の方向を変える。
「あれが俺の通う大学だ」
長谷川が指すのは街の中心地になかなか広い敷地を構えている、難関というよりも『目標は高く設定しましょう』と言われた時に書くような有名大学だ。
あんな超有名で難関な大学に、すんなりと推薦で入れてしまう長谷川のスペックに驚いた。
「吉野が通うのは・・・あそこらへんか?」
「多分ね」
だいたいの方角を指さして言う。
私の通う大学は、今住んでいるところからさらに街の中心地から離れる位置にある。
これから長谷川と会う機会って減っていくのかなぁ?
なんか少しさみしいな。
そう考えていると、オタトークをしながら下校していたのがとても懐かしく思えてきた。
「吉野」
ふと呼ばれて長谷川のほうを見ると、私を見ていた長谷川と目が合う。
相変わらずの無表情だけど、目を見ていると吸い込まれそうな感じがしてくる。
吸い込まれているのかと思うくらい長谷川の顔が近づいてきて、私の唇に温かいものが触れた。
そして長谷川の顔が離れていく。
何をされたのかわからず、一瞬固まってしまったが、それが長谷川の唇だったことに気がつくのにはさほど時間が掛からなかった。
「・・・!?ちょっと!長谷川っ!」
「大丈夫。誰も見てないから」
「そ、そうじゃなくて!」
「何か問題でもあったか?」
「わ、私、ファーストキスだったんだけど・・・」
「大丈夫だ。問題ない。俺も初めてだ。だからすごく緊張したしドキドキした」
「え、あ、いやー・・・」
そういう問題じゃなくて・・・
私、はじめてのキスを棒立ちで目開けっぱなしで終えたことになるんですけど。
そのことを長谷川に伝えた。
「そういうことか。それは悪いことをした。ならもう一回しよう」
また長谷川の顔が近づいてくる。
そのまま唇が触れ合ったけど、さっきのチュッって感じではなく長いキスだったので、ビックリしたけど、私は目をつぶって二回目のキスを味わうことができた。
互いの顔が離れた時に長谷川の後ろにはテレビ塔から見える絶景が広がっていた。
まるで空を飛んでいるかのような気分だった。
「また来ようね」
「あぁ」
おしまい。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とかありましたら書いていただけると幸いです。
さて。なんやかんやで長かった(?)このシリーズもこれで最終回となります。
応援していただいた皆様ありがとうございます。
今後の二人の幸せを祈っててください。
次回はまた違う作品になるかと思いますが、その時はその時でまた応援から悪口まで色々とよろしくお願いします。
ではまたどこかでー
おしまい