私は絶対に屈しない。推しを守るための「特製目潰しスクラブ」
私は絶対に屈しない。推しを守るための「特製目潰しスクラブ」
「俺のセシリアに、薄汚い殺気を向けたな」
背後に現れたキッドくんの一言で、周囲の温度が一気に零下まで下がったかのような錯覚に陥った。
白銀と漆黒、二つの片翼を大きく広げたネフィリムの少年。
その体から立ち上る、底知れぬ魔気と神気の入り混じった圧倒的なプレッシャーに、ゴロツキたちは顔色を蒼白にして後ずさった。
「な、なんだこのガキ……!? 羽が生えてるぞ!?」
「ネフィリムだ! 禁忌のバケモノが、なんでこんな村に!」
「ひっ……! 殺気だけで、息が……ッ!」
歴戦の傭兵崩れであるはずの男たちが、たった一人の16歳の少年を前に、ガチガチと歯の根を鳴らして震え上がっている。
だが、その中でリーダー格の男だけは、焦りと恐怖を強引に怒りで塗り潰した。
「チィッ! ええい、ビビるな! 所詮はただのガキ一匹だ! それに周りを囲まれたってなら、この女を盾にすれば――!」
男は血走った目で私を睨みつけると、腰から短剣を引き抜き、私を人質に取ろうと猛然と飛びかかってきた。
「セシリアさんッ!!」
「嬢ちゃん!!」
マンミアさんとリキ兄貴が叫ぶ。
キッドくんの瞳がスッと細まり、その姿がブレた。彼が動こうとした気配を感じた。
(ダメよ、キッドくん!)
私は心の中で叫んだ。
相手は完全な裏稼業のプロだ。いくらキッドくんが強くても、私が人質にされれば彼らの動きを制限してしまう。それに、大事な推しの手を、こんな序盤のザコ相手に血で汚させるわけにはいかない。
前世で、限界社畜OLとして生きてきた私を舐めないでほしい。
理不尽なクレーマー、期限当日に仕様変更を要求してくる上層部、セクハラまがいの取引先。
数々の修羅場を潜り抜けてきた私のメンタルは、刃物を突きつけられた程度で折れるほど柔な素材でできてはいないのだ!
「大人しくしやがれ、女ァ!!」
「大人しくするのは、あんたの方よッ!!」
私は迫り来る男の刃をギリギリで躱し、先ほどポケットから取り出していた『ある物』を両手で構えた。
「スキル発動! 【至高のコスメ錬金】!!」
私の手のひらから、強い錬金光が放たれる。
私が握りしめていたのは、ポーション作りで余った『月見大根』の硬い繊維質の搾りカスと、『サンライス(米麦草)』の粗挽き粉。そして、『陽薬草』の葉の裏にある微細なトゲ成分だ。
これらを錬金術で極限まで凝縮し、乾燥させたパウダー。
本来は、頑固な角質や毛穴の黒ずみを削り落とすための強力なピーリング剤。
その名も――『超・角質除去用(物理)特製ディープクレンジング・スクラブ』!!
「推しの生活圏(聖域)を荒らした罪は重い! 目には優しい天然由来成分100%だけど、物理的には激痛よッ!!」
私はその特製スクラブを、男の顔面に向けて思い切りぶちまけた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
顔面を直撃した粉末が、男の目や鼻、口に容赦なく入り込む。
サンライスの粗挽き粉が粘膜をヤスリのように削り、月見大根の強烈な辛味成分が眼球を焼き、陽薬草のチクチクしたトゲ成分が容赦なく突き刺さる。
男は短剣を取り落とし、顔を両手でかきむしりながら、地面をのたうち回った。
「目があぁぁぁッ! 痛ぇ、痛ぇええええええええッ!!」
「フン。毛穴の汚れと一緒に、その薄汚い根性も洗い流しなさい。お肌のターンオーバーには少し刺激が強すぎたかしらね」
私が冷酷に言い放つと、地面でのたうち回るリーダーの姿を見た他のゴロツキたちが、一瞬ポカンと呆けた。
か弱いはずの元貴族令嬢が、謎の粉で屈強なリーダーを瞬殺したのだから当然の反応だろう。
「な、なんだあの女……魔法使いか!?」
「くそっ、やりやがったな! リーダーの仇だ、殺せェッ!!」
パニックに陥った数人の男たちが、怒り狂って武器を振り上げ、一斉に私へと殺到してくる。
さすがに多勢に無勢。私の手元にもう錬金素材はない。
(よし、十分時間は稼げたわ!)
私が防御姿勢を取ろうとした、その時だった。
「……よくやった、セシリア」
フワリと、私の前に黒い影が舞い降りた。
キッドくんだ。
彼は私を背中に庇うように立つと、私にだけ聞こえるような優しい声でそう囁いた。
そして、殺到してくる男たちへ向き直る。
その瞬間、彼の背中の白銀と漆黒の羽が、バサァッ! と威嚇するように大きく広がり、周囲の空気を震わせた。
「お前ら……俺が『触れるな』と言ったのが、聞こえなかったのか」
キッドの声は、先ほどまでの静けさから一転して、地獄の底から響いてくるような重低音に変わっていた。
彼の左目、魔族の瞳孔が完全に細く収縮し、右目には天使族の神聖な光が宿っている。
「ひっ……! 怯むな、いけぇぇッ!!」
「死ね、バケモノォォッ!」
恐怖を誤魔化すように、男たちが剣や斧を振り下ろしてくる。
マンミアさんが「キッド君!」と叫び、リキ兄貴が「手ぇ貸すか?」と声をかけてきたが、キッドくんはそれを片手で制した。
「手出し無用だ。……こいつらは、俺がやる」
キッドの右手に握られた闇の剣『ノワール』から、ドス黒い魔気が立ち上り始める。
それと同時に、彼の左手には、眩い光を放つ神聖な剣『ルクス』が召喚された。
光と闇の二刀流。ネフィリムである彼だけが扱える、最強の武の象徴。
「あんたたちは、セシリアを傷つけようとした。彼女の居場所を奪おうとした」
キッドが一歩、踏み出す。
たった一歩。それだけで、男たちの足が地面に縫い付けられたように止まった。
圧倒的な格の違い。
自分たちが手を出していい相手ではなかったと、本能が警鐘を鳴らしているのだ。
「俺は、俺の『すべて』を懸けて、彼女を守ると誓った。……その誓いを汚そうとする奴は、誰であろうと容赦はしない」
キッドの全身から、光と闇の力が螺旋を描いて立ち上る。
私はその後ろ姿を見て、ハッとしていた。
(キッドくん……)
私の推しは、ただの可愛い美少年じゃなかった。
過酷な運命を背負いながらも、誰かを守るために剣を取れる、気高く強い一人の男の子なのだ。
そして今、彼はその剣を、他でもない私のために振るおうとしてくれている。
「後悔する時間くらいは与えてやる。……地獄で、な」
キッドの目が、冷酷な光を放った。
限界オタクの私が、ただの『推し』として彼を見ていられた時間は、どうやらここまでらしい。
愚かな元婚約者が差し向けたゴロツキたちへの、最強のネフィリムによる圧倒的で冷徹な『蹂躙』が、今、幕を開けようとしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「セシリアさん、つええええ!」
「物理スクラブ(目潰し)はえぐいww」
「キッドくん、完全にヒロインを守るナイトの顔!」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回、ついにキッドくんの真の力が解放されます。
残酷な描写はありませんが、圧倒的な実力差で敵を制圧する『美しく冷徹なキッド』の姿に、胸キュン間違いなしです!
引き続き、どうぞお楽しみください!




