第一章 推し顔のネフィリムを拾ったら、最強の番犬(スパダリ)になりました
婚約破棄? 最高です! 限界社畜、辺境の村で『推し(顔)』を保護する
「セシリア。貴様のような悪逆非道な女は、我が婚約者にふさわしくない! この婚約は破棄し、貴様はただちに辺境の地『ポポロ村』へ追放とする!」
王都の豪奢な大広間で、元婚約者である高慢ちきな貴族の坊ちゃんがそう高らかに宣言した瞬間。
私、セシリア(25歳)の心の中では、ファンファーレが鳴り響いていた。
(よっしゃああああああっ! やった、ついにやったわ! これで窮屈な貴族社会からおさらばよ!!)
私は顔を覆い、悲劇の令嬢を装って肩を震わせた。
周囲の貴族たちは「あぁ、可哀想に」「自業自得だ」とヒソヒソ囁いているが、違う。私は笑いを堪えるのに必死なのだ。
私には、前世の記憶がある。
日本の大手化粧品メーカーで研究開発(R&D)部門に勤めていた、いわゆる限界社畜OLだった。
連日連夜のサービス残業、終わらない成分分析、上司からの無茶振り。睡眠時間は毎日3時間。私の命を繋いでいたのは、栄養ドリンクと――ただ一つ、『推し活』だった。
スーパーアイドル『朝倉月人』。
彼の圧倒的なビジュアルと、ファンへの神対応。彼のためだけに私は働き、全財産を貢ぎ、彼のライブに行くことだけが人生のすべてだった。
しかし、過労で倒れてあっけなく今世に転生。
せっかく貴族の令嬢に生まれたのに、今度は「淑女教育」と「政略結婚」という名の新たなブラック環境が私を待っていたのだ。
(冗談じゃないわ! 前世も今世も社畜なんてまっぴらごめんよ!)
そうして私は、元婚約者が勝手に浮気してでっち上げた「無実の罪」をあえて嬉々として受け入れ、念願の自由を手に入れたのだった。
◇◇◇
数日後。
王都から馬車に揺られ、私はついに帝国・王国・魔皇国の三すくみ地帯に位置する絶対的緩衝地帯――『ポポロ村』へと足を踏み入れていた。
「はぁ〜っ、空気が美味しい! 最高!」
魔境だの危険地帯だの噂されていたが、目の前に広がるのはのどかな田園風景だ。
私の手元には、転生時に目覚めたユニークスキル【至高のコスメ錬金】がある。前世の化粧品開発の知識と、この世界の魔法植物を掛け合わせ、あらゆる美容液やポーションを生み出せるという超便利スキルだ。
「えーと、確かこの辺りに『陽薬草』が自生してるって聞いたんだけど……ん?」
村外れのあぜ道を歩いていた私は、ふと足を止めた。
道の脇の草むらに、何かが倒れている。
「……人? いや、子供……?」
慌てて駆け寄ると、そこにはボロボロの服を着た少年がうつ伏せで倒れていた。
背中からは、白銀と漆黒――相反する二つの色の『片翼』が生えている。天使と魔族の混血、禁忌とされる『ネフィリム』だ。
少年の体には無数の打撲傷や切り傷があり、土気色の顔をして浅い息を繰り返している。
「ちょっと、しっかりして! 生きてる!?」
私は咄嗟に彼を仰向けにし、顔にべったりと付着していた泥と血を、持っていたハンカチでそっと拭き取った。
「急いで手当てを――」
その瞬間、私の動きが、いや、心臓が完全に停止した。
泥が落ちたその顔立ち。
スッと通った高い鼻梁。長いまつ毛。黄金比で計算されたかのような完璧な骨格。どこか儚げでありながら、内側に秘めた強さを感じさせるその造形。
「えっ……? ウソ、でしょ……?」
ドクン、ドクンと耳の奥で自分の血流の音が聞こえる。
見間違えるはずがない。前世で、擦り切れるほど映像を見た。何万枚も写真をファイリングした。私の人生のすべてだった、あの顔。
「ツキ、ト……くん……?」
そこにいたのは、前世の私の唯一の推し、朝倉月人くんに瓜二つの美少年だった。
「やだこの美少年! 月人くんそっくり! 尊い! 尊すぎる……ッ!!」
突如として、私の全身のオタク細胞が限界突破の音を立てて覚醒した。
推し(顔)が! 私の推し(顔)が、こんな辺境の村で土に塗れて死にかけている!?
許されるわけがない。こんな国宝級の美顔を傷つけるなんて、全宇宙の損失だ!
「待ってて! 今すぐ私服の……じゃなかった、至高のケアをしてあげるからね!」
私は猛烈な勢いで周囲を見渡し、あぜ道に生えていた『陽薬草』を根こそぎむしり取った。さらに、カバンに入れていた特産品の『月見大根』の切れ端を取り出す。
「スキル発動! 【至高のコスメ錬金】!!」
私の両手から眩い錬金光が放たれる。
陽薬草の持つ強力な細胞再生成分を極限まで抽出し、月見大根の持つ月のマナ(超保湿と鎮静効果)で中和。ナノレベルまで成分を細分化し、経皮吸収率を驚異の99.9%まで引き上げた『超回復・神気ブースト美容液』を一瞬で錬成した。
「よし、完璧! これを塗ればお肌もツヤツヤ、体力も全回復よ!」
私は完成した黄金色の美容液を手に取り、推し(顔)の頬へと躊躇なくパシャパシャとすり込ませた。
「あああ、なんてキメの細かいお肌なの……! 傷跡なんて一つも残さないわ。私の持てるすべての技術を注ぎ込んで、ピカピカに磨き上げてみせる……ッ!」
限界オタクの狂気的な手付きで美容液を浸透させると、少年の体から淡い光が立ち上った。
痛々しかった痣や傷が、まるでビデオの巻き戻しのようにスルスルと消え去り、土気色だった肌にほんのりと血色が戻ってくる。
そして――。
「ん……ぁ……?」
長いまつ毛が震え、少年がゆっくりと目を開けた。
至近距離で見つめ合う。
ヤバい、顔がいい。顔面国宝。ファンクラブに入会させてください。今すぐファンレターと札束を握らせていただきたい。
「あんた……誰だ……? 俺は、修行中で……」
目覚めた少年は、混乱した様子で周囲を見渡し、それから私を見てパチクリと瞬きをした。
前世のツキトくんよりも少しだけ声変わり中の、ハスキーで少年らしい声。それもまた最高に尊い。
「通りすがりの村人A(限界オタク)です! ああっ、喋る声も最高……ッ! 生きててよかった……!」
「……は? 限界、おたく?」
少年――キッドは、ドン引き半分、戸惑い半分といった顔で私を見つめている。
彼にとって、自分が『ネフィリム』であることは迫害の対象となるはずだ。しかし、今の私の目には『種族の禁忌』など1ミリも映っていない。
映っているのは『保護しなければならない最強の推し』だけである。
「ねぇ、君、名前は? 家はどこ? ご飯ちゃんと食べてる!? 顔色良くはなったけど、まだちょっと痩せてるわね。よし、私が養ってあげる!!」
「はあぁっ!? や、養う!? あんた、頭打ってんのか!? 俺はネフィリムだぞ! 悪魔と天使の――」
「そんなの関係ないわ! 推し活に種族は不問よ! さあ、遠慮しないで私に貢がせて!!」
「だから話を聞けっての!!」
顔を真っ赤にしてツッコミを入れる美少年。
なんだこれ。ツンデレか? ツンデレ属性まで持っているのか?
可愛すぎて私の心臓が爆発しそうだ。
王都での陰湿な日々はもう終わった。
私の第二の人生――いや、第二の『推し活』が、この辺境のポポロ村で今、華麗に幕を開けたのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「婚約破棄されても元気すぎだろ!」
「限界オタクの行動力やばいww」
「キッドくん逃げて超逃げて!(でも養われたい)」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回、最強のヤンキー聖獣『リキ兄貴』が爆音と共に乱入!?
引き続き、セシリアの推し活とキッドくんのタジタジな日常をお楽しみください!




