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魔王と勇者の紙ヒコーキ!~少年と物語の始まり~  作者: 花より団子よりもお茶が好き。
◇本編

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十章:そして物語は終盤へ02


 驚くカインの横で、カボチャが間髪容れず問いかけた。


「カイン、この方々は?」

「あ、えっと……カボチャには話したかもだけど、俺のバイト先の先輩達」


 シュケルが「やはり、そうでしたか」と呟く。

 カボチャは眉間に手を当ててため息をつくと「いいですか」と言ってカインへ向き直った。


「この方々はですね──南の国の魔族の王、サファメイ様と」


 名を告げた瞬間、亜麻色の髪の女性が「なんじゃ、もうバラすのか」とつまらなそうに言いながら、くるりと一回転した次の瞬間。

 まるで炎が爆ぜたように、亜麻色だった髪は、頭の両端で丸く結い上げられた燃え盛る炎のような真っ赤なおだんご頭へ。服もまた、お腹を大胆に露出した真っ赤な衣装へと姿を変える。

 好戦的な緑の瞳が、まっすぐカインを射抜いた。


「そして──」


 続けたのはカボチャではなく、褐色の男だった。

 もともと黒と白のメッシュだった髪に、じわじわと白が浸食するように広がっていく。

 褐色の肌には、花が咲き広がるように術式めいた刺青が浮かび、必要以上に肌を晒す、雪のように白い衣服。

 紫色の瞳がゆっくりとこちらを見た。


「僕が、西の魔族の王、クローズです」


 長いおさげ髪を肩から払う仕草には、あからさまに挑発めいている。


「とても面白い〝見世物〟を有り難う、人間」


 カインは思わずキョロキョロと二人を見比べ「え、ええ……?」と声を漏らした。

 するとカボチャが一歩前へ出て、二人に指を突きつける。


「カインに話を聞いた時からおかしいと思ってたんです。この僕が、気配を掴めないなんて、ただの人間や魔族じゃあり得ません。つまり僕以上の力を持つ〝何か〟ですから」

「ほう。この僕を〝何か〟扱いとは。北の魔王殿、少し躾がなっていないようだ」


 クローズが薄く笑い、魔王へ視線を向ける。

 魔王の瞳がすっと冷えた。


「つまり……こいつ(カイン)に、あんなろくでもないことをそそのかしたのは……貴──」


 言い終わる前に、カボチャが慌てて飛びつき魔王の口を塞いだ。


「落ち着いて下さい魔王さま! お気持ちは分かりますけど、ここで余計な火種を蒔いたら大変です!」

「カボチャ、見逃せ」

「見逃せませんよ。シュケル、シュケルなんとかしろ!」


 呼ばれたシュケルは、いつものように穏やかに微笑む。


「魔王さま。西の魔王と貴方が本気で争えば──二百年経っても終わりませんよ」

「……」

「魔王さま」


 諭され、魔王は深くため息をついた。


「……すまないカボチャ。余が悪かった」


 そしてカボチャの手をどけた。


「全く、北の坊主もまだ青いのう。会議中に紙飛行機を飛ばして寄越す不届き者に、少し興味を示しただけでこの有り様とは」

「そうですよねぇ。ちょっと暇潰しに戯れただけだというのに……まあ、大事な大事なお子に手を出そうとしたのは謝りましょう」


 謝る気のない謝罪に、魔王とカボチャが同時に剣呑な眼差しを向けた時。

 ふと足音が、その場の空気を一変させた。


「いやぁ、いったいどうなる事かと思ったが、丸く収まったようで良かった。良かった」


 カインが振り返ると、涼しい風がさらりと流れ込むように、その姿が現れた。


「……東の魔王殿? どうしてここに」


 魔王の驚きと同時に、カインは(また増えた!?)と驚く。

 その傍らには、どこか疲れた様子のくすんだ黄金色(こがねいろ)の髪の人間と控えめに佇む灰色の髪の青年。

 東の魔王はいやぁまいったと言うように髪を掻き上げる。


「実はその、貴殿の城に私の娘〝リーベ〟が迷い込んでしまってな」


 すると彼の後ろから人間の少女が現れた。

 亜麻色の髪と亜麻色の瞳を見て、カインは「あっ」と声をあげ、カボチャに知り合いか聞かれて「うんちょっと」と頬を掻く。

 リーベと呼ばれた少女は人間の男に促され、勝手に侵入したことについて申し訳ないと頭を下げた。

 そんなリーベに東の魔王が問う。


「ブローチに込めた魔力を追って来たが、いったいどうしてここへ――」

「揃いも揃って、ここで何をしていらっしゃるんですか」


 訳が分からぬ状況の中、今度はハッとするほど冷たい美声がいきなり辺りに響く。


「っ! ……この声は」

「ママ!」


 真っ先に反応したのは東の魔王とその娘の面々だ。


「野暮用を終えて戻ってみれば、中心となる四大国の魔王さま方が行方をくらましているわ、その部下や各国の要人が騒いでるわであちらは大混乱ですよ」


 その言葉と共に現れたのは類い稀なる美貌を持つ白の魔族。

 真っ白なローブを翻し、冬の粉雪のように煌めく真っ白な長い髪。ステンドグラスのアーチ状の窓から射し込む日差しを受けて、より一層神秘的に見える。

 しかしその瞳は氷のように冷たい――誰が見ても分かる。彼は物凄く怒っている。

 リーベが駆け寄って「ママ!」と、ハクイの腰にしがみついた。


「探していたのよママ!」


 東の魔王の顔色が青くなり、小声で「やめておけ」と言っている。


「リーベ、貴女もいい加減大きくなったのだからその呼び方はやめなさい。そもそもママというのは女性のことを指して」

「それよりもエルが大変なのよ! ママが何も言わずに城を空けたから怒っちゃって!」

「リーベ、わたくしの話を聞いてましたか?」

「お父様と一緒に行ったって知ったら更に怒っちゃって!」


 リーベが東の魔王へ指を差しながら言うので、おそらくお父様とは彼なのだろう。


「エルがそんなだから悪魔の子達も好き勝手してクーの住みかを荒らしちゃうし」


 するとその会話を聞いて東の魔王が人間の男にそうなのかと耳打ちする。

 人間の男はそうだとばかりに肩をすくめた。


「あーもういいです。それについては先程片付けて来ましたから、あと先程、クーも回収しましたよ」

「え?」


 リーベはキョトンとした。


「ですから貴女はもう城へ帰りなさい。クーもいいですね」

「はい」


 ハクイの後ろからポニーテールを赤いリボンで結んだ少年が出てきた。

 ようやく混乱の元の一つが解決しそうなのに、今度は南の国の魔王、サファメイが口を開く。


「なんじゃせっかく来たのにもう帰すのか? 人間にしては愛らしい愛娘ではないか。ワシはもう今日は会議などとかたっくるしいことなぞする気はないぞ」

「サファメイ殿の言う通り。いっそ親睦会と称して宴でもどうですか? ねぇ北の魔王殿」


 西の魔王であるクローズがサファメイの話に乗っかり北の魔王を見る。

 魔王はいささかバツの悪そうな顔をした。


「あ、あぁそうですな。それも良いかと」


 もはや収拾がつかない状況に、ハクイの怒りの声が木霊する。


「つべこべ言わず全員アケドラル城へ戻りなさい。話はそれからです!」


 ――もう、なにがなんだか、カインは分からなかった。



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