誘った男の、最初の一手
待ち合わせ場所に、朝の光が満ちていた。
石畳に反射する陽射しが眩しくて、
カレンは何度も瞬きをする。
(……夏だなぁ)
風が軽く、
胸の奥まで透き通るような空気。
そこへ――
「待たせたか?」
聞き慣れた声。
振り返った瞬間、
カレンの表情がぱっと明るくなる。
「ううん!ぜんぜん!」
声まで弾んでいた。
ベルンハルトは一瞬、
その笑顔を真正面から受け止めて、
小さく息を吸う。
(……眩しいな)
今日は学園のローブもなく、
ただの“休日”の装い。
飾り気はないのに、
彼女は周囲の光を集めているみたいだった。
「……行こうか」
そう言って、
自然な流れで手を差し出す。
カレンは一拍も迷わず、
その手を取った。
指が触れた瞬間、
ぎゅっと握り返される。
「今日はね、すごく楽しみにしてたの!」
歩き出しながら、
カレンはそう言って笑う。
「誘ってくれたの、嬉しかったから」
ベルンハルトは、
その言葉を聞いてから、
歩調をほんの少しだけゆっくりにした。
(……そうか)
彼女は、
自分から誘われることを、
ちゃんと大事にしている。
それが分かっただけで、
胸の奥が静かに熱を持つ。
人の多い通りでは、
彼はさりげなく位置を入れ替え、
彼女が内側を歩くようにした。
言葉にしない配慮。
でも、確かな意思。
カレンはそれに気づいて、
何も言わず、ただ嬉しそうに歩く。
「ベルン、今日はどこに行くの?」
「……内緒だ」
「えー!」
笑い声が弾む。
その反応を見て、
ベルンハルトは目を細めた。
(……最初の一手は、上出来だな)
無理に引き寄せない。
でも、離れさせない。
彼女が笑っていられる距離で、
確実に隣にいる。
夏の陽射しの中、
二人の影が並んで伸びていく。
カレンは終始、
楽しそうで、
嬉しそうで、
その笑顔が一度も曇らない。
それを横で見ながら、
ベルンハルトは静かに思う。
(……この夏は、
俺が連れていく)




