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子猫になった気弱魔導士は猫嫌いの氷の宰相に愛される  作者: はんぺん


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74/200

74話

 小さなものから大きなものまで、魔石を少しずつ溶かしていく様子を正確に思い浮かべながら慎重に魔法をかけていく。同時に魔石から還元した魔力は精霊たちに分け与えることで、マリーナの体内で魔力過多の症状が起こらないように細心の注意を払う。


(あとは、この魔石を魔力化して取り除けば、マリーナさんの体は元通りになるはず)


 長い時間をかけて施術を続け、ようやくマリーナの脳内に出来ていた最後の魔石に取りかかった時、アイカの気力や体力はほとんど尽きかけていた。


(魔力操作をし続けるのが辛くなってきたわ。一瞬でも気を抜けば意識を飛ばしてしまいそう‥‥‥)


 それでも、精霊たちの応援に励まされながら、最後の魔石を魔力へと還元していく。


 全ての施術をやり終えた時、緊張の糸が切れたアイカは、ベッドの上に足を投げ出して座り込んだ。ふと窓の外を見ると、月はとうに見えなくなっていて、空がうっすらと白み始めていた。


『何とか終わったわ‥‥‥』


 アイカは目を閉じると、深く息を吐いた。


『治療は成功ー?』

『ええ。これでもう、マリーナさんは大丈夫』

『あいか、ありがとー!』

『やったー!』

『あいか、おつかれー』

『あいか、すごいー』

『あいか、えらいー』


 精霊たちの惜しみない称賛を浴びながら、彼女は疲れ切った体を叱咤して這うようにマリーナの胸元へと移動すると、そっと耳を澄ませて心音を確認する。


(よかった。呼吸も心拍も正常だし、顔色も問題ないわ。‥‥‥これでもう大丈夫)


 安心したアイカは、その場にふにゃりとへたり込んだ。


『さすがにもう限界みたい‥‥‥。少しだけ、眠っても‥‥‥いいかしら‥‥‥』

『いいよー!』

『人が来そうになったら起こしてあげるー』

『ありがとう‥‥‥』


 強烈な眠気に逆らえずにまぶたを閉じた瞬間、彼女は気絶するように深い眠りに落ちていた。


 小さな寝息を立てて、こんこんと眠りこむ子猫の周りに、部屋の中にいた精霊たちが集まってくる。


 風の精霊は、小さな彼女が体を冷やさぬよう、椅子の上にたたまれていたひざ掛けをふわりと掛け、光と火の精霊は温かな空気を作り出して彼女の身体を優しく包み込んだ。


 疲れ切った寝顔を見つめながら、精霊たちは話し合う。


『まりーな、あいかじゃないと助けられなかったー』

『あいか、すごくすごく無理して助けたー』

『これは評価されるべきー』

『されるべきー』

『まりーなは、きっと感謝するー』

『屋敷の人もぜったい感謝するー』

『でも、あいかの正体がわかったら、手のひらかえるー?』

『あいか、なにも悪い事してないのにー?』

『でも、あいかの故郷のひとたち、嘘を信じたよー?』

『あいかを信じなかったー』

『だからあいか、とっても傷ついたー』

『まりーなは、そんな事しないよー』

『ほんとだよー』

『ほんとかなー?』

『じゃあためすー?』

『ためすー!』

『もしためして、だめだったらー?』

『だめだったらー?』

『そのときは、しょうがないー』

『仕方がないから、この国を出て行くー』

『あいかを連れて出て行くー』

『あいかを連れて帰るー』


 もし大切なアイカの献身が報われることなく、この屋敷の人々が彼女を傷つようとするのなら、直ちに彼女の母国に連れて帰る――彼女と共にやってきた精霊たちはそう心に決めていた。


 おそらく、目的を果たせずに帰国する事を、アイカはとても嫌がるだろう。だが、彼女が使命を果たす事よりも、彼女の心と体を守る事の方が、精霊たちにとってはずっと大事なのだ。

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