表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子猫になった気弱魔導士は猫嫌いの氷の宰相に愛される  作者: はんぺん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/200

71話

(まさか、あの子がここに来ているの?)


 音がしたのはほんの一瞬で、すぐに何も聞こえなくなってしまったが、何者かがそっとこちらの様子を伺っているような気配を感じる。


「マリーナ様、いま何か音がしましたよね?まさか、子猫の精霊が来ているのでは?!」


(まって、シェリー!行ってはだめ!)


 シェリーが声を弾ませるのを聞いたマリーナは、慌てて彼女を制止しようと手を伸ばしたが、ほんの少しの差で間に合わず、自分の主が精霊を怖がらせる事を危惧しているのを知らない元気者のメイドは、小さなくしゃみが聞こえた場所の前にしゃがみ込んでいた。


「子猫の精霊さん、そこにいらっしゃるんですよね?私、このお屋敷のメイドでシェリーっていいます。マリーナ様をドロレスから助けて下さったのは精霊さんですよね?本当にありがとうございます!私も使用人仲間のみんなも、精霊さんには本当に感謝しているんです」


 彼女は一息でそう言うと、ベッドの下に向かって勢いよく頭を下げた。


 シェリーは一拍おいて耳をすませたが、返事らしきものは何もない。だが、目が見えないマリーナには、依然として何者かが息を殺してこちらを伺っている気配が感じられる。


(今ならまだ間に合う。あの子がどこかへ行ってしまう前に、シェリーを止めなくては)


 大きな音をたてないように慎重にテーブルに手を付いたマリーナが、力の入らない足で何とか立ち上がろうと試みたその時――


「あの、精霊さんの作ってくれたお料理はどれもおいしくて、マリーナ様がいつも完食して下さるようになったんです。だから、お願いですから、どうかうちの料理長に精霊さんのお料理の作り方を教えていただけないでしょうか?」


 シェリーの口から意外な言葉を聞いて、マリーナが動きを止める。


「精霊さんが姿を見せたくないということでしたら、もちろん諦めます。でも何とかお願いできませんか?私の魔力で宜しければ、いくらでも差し上げます。誰も精霊さんの周りには近づかないようにします。だから、どうか、どうかお願いします‥‥‥!」


 シェリーはそう言って両膝をつくと、下げていた頭をさらに床に擦りつけて懇願した。その心臓は今、苦しいほどに脈打っている。


 精霊が料理を用意するようになってから、マリーナは三食きちんと食事を取れるようになり、そのおかげで体調が改善して顔色が見違えるほど良くなった。


 それを誰よりも間近で見ていたシェリーは、このまま毎日きちんと食事を取ってもらえれば、たとえ病は治らなくても延命する事は可能かもしれないと、微かな期待を寄せるようになっていた。


 だが、もし精霊がこの屋敷から立ち去ってしまえば、それも叶わなくなってしまう。料理長のバルデムを筆頭に、料理人たちが空いた時間を使って試行錯誤しているが、精霊の料理を再現できる目途は全く立っていなかったからだ。


 だから彼女は考えた。もし料理を作っている精霊に出会う機会が訪れたなら、料理の作り方を教えてほしいと頼んでみようと。バルデムたちが料理を作れるようになれば、精霊が屋敷を去った後も、マリーナに美味しい食事を提供する事ができ、彼女を延命させる事が可能になるだろうと──


 だが、相手は高位精霊だ。もしこちらの願いを無理強いして機嫌を損ねでもしたら、きっと大変な事になる。本当なら最初に精霊を見つけたトマスのように、もし精霊を見かけてもに気づかないふりをして関わらないのが正解なのだろう。


 けれど敬愛するマリーナの事を思うあまり、すぐそばに精霊がいると知った時、彼女はどうしても黙ったままじっとしている事ができなかった。気が付いた時には、体が動いてしまっていた。


(もし精霊が怒ったり、(わずら)わしく思って屋敷から出て行ってしまったら、どうしよう)


 しんと静まりかえった部屋の中で、シェリーの口の中は緊張でカラカラに乾いていた。祈るような気持ちで耳をすませたが、やはり返事は返ってこない。


(ああ、そんな‥‥‥)

 

 やはり精霊は機嫌を損ねて立ち去ってしまったのだと思い、シェリーは絶望して、床につけたままの頭を上げる事ができずにいた。そんな彼女の様子を、見えないながらも察したマリーナが、どうにかして慰めようと細い手を伸ばしかけたその時――


『にぁ』


 ベッドの下から、か細い鳴き声が聞こえた。


「あ‥‥‥!」


 ――ためらいがちなその鳴き声を聞いた瞬間、シェリーは安堵と喜びのあまり、大粒の涙を零して泣き伏した。


ご覧いただきありがとうございますm(__)m

もし面白かったと思っていただけましたら、お星さまをポチっていただいたりブクマやリアクションで応援していただけると、更新する励みになります‥‥‥!

既に評価して下さった方々、本当に本当にありがとうございます!!これからも少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ