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子猫になった気弱魔導士は猫嫌いの氷の宰相に愛される  作者: はんぺん


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69/200

69話

 自分の身に不思議な事が起きていると、最初に彼女が気づいたのは、ドロレスにわざと食事をぶちまけられた日だった。


 クラウスたちが部屋から去り、一人きりになった彼女は、その日も惨めな気持ちのままで目を閉じた。だが、毎日水とスープしか取らせてもらえない上に、病でボロボロになった体は泥のように重く、息苦しい事もあってなかなか寝付く事ができないでいた。


 ふと、クラウスが閉めたはずの窓から、何者かが入って来た気配を感じたのは、そんな時だった。


 彼女の足元にいる何者かに意識を集中していると、かすかな声が聞こえてきた。


(可愛らしい鳴き声がするわ‥‥‥。これは、子猫の声かしら?)


 しばらくすると、その何者かが枕元にきて、彼女の顔を覗き込んでいる気配がした。驚かせないようにと、身じろぎ一つせずに寝たふりをしていると、不意に体が内側からぽかぽかと温かくなってきた事に気が付いた。


(まさか、何か魔法をかけられているのかしら?)


 だが不思議にも、この正体不明の侵入者には一切危険を感じなかった。先程から体全体が心地良さに包まれて、だるさや息苦しさが少しずつ薄れている気がする。


(ああ‥‥‥なんだかとても気持ちがいいわ‥‥‥)


 うとうとしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたらしく、次に彼女が目覚めたのはドロレスが夕食を運んできた時だった。またしても彼女に嫌がらせをされて口にできたのは水とスープだけだったが、特に空腹は感じず、体のだるさが消えていたせいもあって、目を閉じるとすぐに眠る事ができた。


 眠っている間にも、夢うつつに正体不明の侵入者から見つめられている気がしていた。


(なんだか私の事をひどく心配しているみたい)


 だが、それは決して嫌な視線ではなく、彼女に奇妙な安心感をもたらした。


 翌日、朝日が昇る少し前に眠りから目覚めたマリーナは、部屋の中に何かがいる気配を感じた。目を閉じてじっとしたまま、しばらく耳をすませていると、ベッドの下から、にゃうにゃうと可愛らしい声が聞こえてくる。またしても謎の侵入者が彼女の部屋を訪れているらしい。


 思わず笑みがこぼれそうになるのを我慢して、引き続き眠ったふりをしていると、ぽすんと軽いものが体の上に乗った気配がした。すぐに、にゃむにゃむという鳴き声が聞こえたかと思うと、体がじんわりと暖まってきた。


(ぽかぽかしてとても気持ちがいいわ。体のだるさが消えていくみたい‥‥‥)


 あまりの心地よさに自然とまぶたが重くなり、気が付くと彼女はまたしてもぐっすり眠り込んでしまっていた。


 執事のクラウスとメイドのシェリーに声をかけられて目覚めた時、外はすっかり明るくなっていた。彼女を起こしに来たのがドロレスではなかった事を不思議に思っていると、クラウスが驚くような事を告げて来た。


 彼の説明によれば、この部屋に入ろうとすると、ドロレスだけが見えない壁のようなものに弾かれてしまうのだという。

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