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子猫になった気弱魔導士は猫嫌いの氷の宰相に愛される  作者: はんぺん


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64/200

64話

 ドロレスが捕らえられてから一週間が経った。


 毒を盛られなくなったマリーナの容体は、シェリーを中心とした使用人たちによる手厚い看護と、アイカの投薬や魔法による治療によって劇的に改善していた。


「今日は顔色がだいぶ良いようですね。呼吸も落ち着いていらっしゃる」


 執務の合間にマリーナの顔を見に来たクラウスが、嬉しそうな顔をする。だが、そんな彼とは対照的にシェリーは憂い顔だ。


「でも、いまだに目は見えないままですし、お声を出したりご自身でお体を動かす事は出来ません。お医者様に伺っても、このご病気を治す方法はわからないという事ですし‥‥‥。それに、いま一時的に容体が安定していても、このまま満足にお食事がとれずに体力が落ちたままだと、いつ(はかな)くなってもおかしくないと言われてしまいました。一体どうしたらいいのでしょう?」


 眠っているマリーナを見つめるシェリーが、悲しそうな顔で執事のクラウスに訴える。だが彼がこの問いに答える事はできなかった。


「こればかりは我々では何ともできません。近いうちにこちらに戻ってくるはずの旦那様が、治療法を見つけて来てくださると良いのですが‥‥‥」


 しばらくして、心配そうな顔の二人が部屋を出て行くと、ベッドの下に潜っていた子猫姿のアイカがぴょこりと顔を出した。すると待ちかねていたように、一斉に屋敷の精霊たちがそばに寄って来る。


『まりーなの病気、お医者さんはわからないのー?』

『あいかは、わかっているのに、どうしてー?』

『お医者さんなのに、なんでわからないのー?』


 矢継ぎ早に質問してくる精霊たちに、アイカが丁寧に説明する。


『マリーナさんがかかっているのは、北大陸の奥地で数件しか見つかっていない、とても珍しい病なの。だから西大陸にあるこの国のお医者さんがわからないのは、仕方がない事だと思うわ』

『ふーん、そうなんだー』


(でも、今までこの病にかかったのは、北大陸に生息する特定の魔物の毒を受けた人だけのはずなのに‥‥‥。マリーナさんは一体どこで病にかかったのかしら?)


 出会ったその日のうちに、アイカは彼女の体の状態を詳しく検分して、病の正体を突き止めていた。


 彼女がかかっている病の名は、魔力硬化症という。


 この病は、魔力が正常に循環してないせいで体内に魔力溜まりができ、それが魔石化することで体に深刻な障害をもたらし、やがて死に至らしめるという恐ろしい病である。


 マリーナの場合は、体だけでなく脳内で魔石化が起こったせいで、言語機能や視力が失われてしまったようだ。今以上に魔石化が進めば、そう遠くないうちに彼女は命を落としてしまうだろう。


(でも、まだ手遅れではないわ。体内にできた魔石を取り除いて、正しい魔力循環が行われるように魔力の流れを整えれば、治す事は可能だもの)


 普通ならば、この病を治療するのは極めて難しい。だが、どんな精霊とも意思の疎通ができ、細かい指示で的確に魔法を操作する事ができるアイカであれば治療する事が可能だ。


(ただ、魔石を魔力化するには時間がかかるから、治療する間にマリーナさんの体力が持つかどうかが心配だわ。とにかく今は、治療に耐えられるように十分な体力をつけてもらわないと)


 そのためには、アイカが作った薬を飲むだけではなく、十分な食事をして必要な栄養素を体に取り込む必要がある。ところが、この屋敷で提供されている料理は、彼女が理想としている食事内容には程遠いものだった。

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