表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子猫になった気弱魔導士は猫嫌いの氷の宰相に愛される  作者: はんぺん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/200

52話

 しばらくの沈黙の後、ベイリーがぽつりと口を開く。


「いまさら遅いのかもしれませんが、私どもがアイカ様に謝罪することはできないでしょうか?」

「そうだな。可能であるならば俺も、今すぐにでもそうしたいところだが、彼女の避難先はキールも教えてくれなかった。精霊たちが全力で彼女を匿っているのなら、俺たちが見つけるのは難しいだろうな」

「アイカ様が精霊と向かった先に、食べ物や体を休める場所はあるのでしょうか?」


 心配そうな顔で声を震わせたイライザに、レイザックは優しい目を向けた。


「精霊がそばにいるなら、おそらくその心配はないだろう。望みは薄いだろうが、念のため、彼女がいつ戻ってきてもいいように、全ての客室に彼女用の寝床や食事を用意しておいてくれるか?」

「はい!旦那様。すぐに手配いたします!」

「では私は、アイカ様のために美味しい果物を取り寄せる手配を!」


 早足で階下へ向かうイライザとベイリーを見送ったレイザックは、再び契約精霊のキールを呼び出した。真っ白な美しい毛並みを持つ子狐は、つんとそっぽを向いたまま、こちらを見ようとしない。どうやら彼の機嫌はまだ直っていないようだ。


「お前の怒りはもっともだ。だから許せと言うつもりはない。だが、もし可能であるのなら、アイカ嬢を連れ出した精霊たちと連絡をとって、彼女に危険が及びそうな時は俺にも知らせてくれないか?」

『‥‥‥』

「キール、頼む」


 そう言って頭を下げる契約者をちらりと見た白狐は、しかたがないなあ、と言う顔をすると、ふっと姿を消した。アイカの身を守る為の指示だと理解して、何とか聞き入れてくれたようだ。


「彼女を大事に扱うよう、リーラからあれほど念押しされていたのにこのザマか。この事をあいつに知られたら、本気で殴られるだろうな」


 静けさを取り戻した部屋で一人、レイザックが自嘲する。


「こうなってしまったからには、アイカ嬢の事は精霊に任せるとして、俺は彼女を聖女襲撃犯に仕立て上げようとする精霊教会の真意を見つけなくてはな。‥‥‥いや、だがその前に、彼女が猫になっている事を知った使用人たちの記憶を消去するのが先か――」


 連日の疲労と睡眠不足のせいで、体をふらつかせたレイザックが近くのソファに座り込む。その目線の先には、アイカが食事をとっていたテーブルがあった。


(そういえば、あの時も酷い事を言ってしまったな)


 彼女が食事を残していたのはわがままによるものではなく、元々香辛料がきいた料理が苦手だったからだった。それに、猫によく似た魔物ならば、匂いや刺激の強い香辛料を好まない可能性があることを考慮すべきだった。彼女を忌避するあまり、そんな配慮すら怠っていた自分には呆れるしかない。


 反論する事もなく、ただ悲しそうにうなだれていた子猫の姿を思い出すと、じくじくと胸が痛む。


(今にして思えば、初めて出会った時はあんなにも俺を恐れて避け続けていた彼女が、必死になって何度も俺に呼びかけていた。あれは、何か大切な事を伝えようとしていたからではなかったのか?)


 もしかしたらそれは、彼女が襲われた理由であり、聖女や精霊教会に関わる事ではなかったか。


(だが俺は、そんな彼女を煩わしく思うだけで、一切耳を傾けなかった)


 今さら後悔しても、もう遅い。身の安全は保障すると言い切っておきながら、己の不誠実な対応のせいで、結果的に彼女の命を危険に晒してしまった。


「もし運良く彼女を見つけられたとしても、俺の事は二度と信用してはくれないだろうな」


 そう呟くとレイザックはゆっくりと疲れ切った目を閉じた。深い疲労と自責の念は、彼の体を鉛のように重くしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ