48話
「どこにもいねえなあ」
「部屋の隅や目につかないところに隠れているかもしれません。念入りに調べてください」
「ふうん。客室はこうなっているのね。あたしら使用人の部屋とは大違い」
「ご主人様がこの部屋に来る事もあるのかしら?どこかに身に着けている物でも落ちていないかな」
真面目に捜索する者もいれば、興味本位で室内を物色する者もいる。いずれにせよ、主の許可なくこの階に立ち入った時点で、彼らの行いは到底許されないのだが、聖女を襲った女魔導士を捕らえる為ならやむを得ないという勝手な思い込みが、彼らの行動を大胆にしていた。
「ここにもいないな。よし、次の部屋に行こう」
「わかったわ」
「お前たち、何をしている!すぐにここから出て行け!」
使用人たちが別の部屋に向かおうとした時、彼らの背後から一喝したのは家令のベイリーだった。
彼の後ろには料理人や厨房係の女性の姿が見える。どうやらアイカの捜索に反対していた者たちがベイリーを呼んできたらしい。だが、上司である彼を前にしても、使用人たちは全く怯まなかった。
「いくらご主人様が命じたからって、本当はベイリーさんも、あの女をこの屋敷に住まわせておくのは嫌なんでしょ?あたしたちも同じなんです。きっとご主人様はあの悪女に騙されているんですよ!だからあたし達がかわりにあの女を追い出さないといけないんです!」
「黙れ!彼女をどうするかは旦那さまが決める事であって、お前たちにどうこうする権利はない!」
「我々にだって権利はありますよ。だって、そのアイカっていう女魔導士は、聖女様を殺そうとしたのですよ?そんな危険な女を公爵家が匿っていると知れたら、ご主人様のお立場が危うくなる。もしそうなれば、公爵家に仕える我々の将来にだって確実に影響が出ますからね」
メイドを一喝したベイリーに若い執事が反論する。
「それは‥‥‥」
「だから、ご主人様をお守りするために、女魔導士を追い出すのは必要な事なんです」
自身も危惧していた事を言い当てられてたじろいだベイリーに、執事がそう畳みかける。
今や形勢は完全に逆転していた。その様子を見たメイドが、顔を上気させて甲高い声を上げた。
「ねえ、そのアイカっていう女魔導士、今は猫の姿になってるんでしょ?それならあたしたちでもやっつけられるんじゃないの?」
「そうだ、猫の姿なら魔法だって使えないはずだ。なら俺たちで捕まえるか殺すかして教会に突き出せば、褒美をたんまりもらえるんじゃねえか?」
「でも相手は危険な悪女なんでしょう?もし反撃されたらどうするの?」
「なあに、その時は殺してしまえばいい。いや、むしろ初めからそうした方がみんな喜ぶかもしれん」
「そうだな。猫一匹なら、縊り殺すことなど簡単だしな」
「それはダメだ!たとえどんな理由であれ、旦那様が客人とした招いた者を使用人が殺めるなど!」
不穏な会話を聞いたベイリーが声を張り上げた時、部屋の外から様子を伺っていたイライザが走り出した。




