40話
(エリアナの勝手な行動のせいで、またしても王都内で――しかも今度は、魔導学院で魔物を出現させてしまうとは)
先日の王都での魔物騒ぎは、ここ数年の間に教会関係者や魔導士が行方不明になっている事について、金目当てで新聞記者に情報を流そうとした助祭の口封じのために、やむを得ず街中で禁忌魔法を使った事によるものだった。
この事件以降、教会内部の監視を強めて二度と同じ事が起こらぬように注意していたのだが、早くもこうして不測の事態が起きてしまった。
(しかし、結果的には杖の秘密に気づいた者の口封じができたのだから良しとするべきか――)
エリアナが手にしているフシュメルリの杖は、ギュントが長い時間をかけ、多くの私財を投じてやっと完成させた唯一無二の品であり、精霊教会の大司教という立場を足掛かりに、やがてはこの国の権力を掌握するという彼の野望を叶えるためには絶対に欠かせない物なのだ。
(聖女や手駒の魔導士どもはいくらでも替えがきく。万が一、禁忌魔法の存在に感づかれても、教会に繋がる証拠は何もないのだから問題はない。もしこちらとの関連を疑われても、実行犯の魔導士やエリアナに全ての罪をなすりつけて、そのまま切り捨てればよいだけの事だ)
今から五年前に、平民落ちして行き場を失ったエリアナに彼が手を差し伸べたのは、実の姪の境遇を憐れんだからではなく、単に彼女の美貌と演技力が彼の野望の為に役立つと思ったからだ。
精霊眼持ちを多く輩出する事で有名な、バーズデール侯爵家の正室の子として生まれたギュントは、精霊眼を持たなかったせいで長男であるにも関わらず家督を継ぐことが許されなかった。そのため、側室が生んだ精霊眼持ちの弟が成人するまでの間、彼はずっと父を補佐する者として飼い殺しにされてきた。
そんなギュントが、精霊眼を持たない者が精霊を使って裏から国を牛耳る、という野望を抱くようになったのはこの頃からで、彼は侯爵家の人脈と己の才覚を存分に発揮して、家には内緒で商会を立ち上げると、商売を成功させて手に入れた莫大な資産を元手にフシュメルリの木を入手した上で精霊の意思を操るための杖の製作に着手した。
廃嫡される前に自ら家を出て精霊教会の司祭となってからは、教会内での地位固めと、杖を完成させる事に心血を注ぎ、やがて司教となって、完成した杖を利用して聖女に仕立てる娘を探していた時に見つけたのが、実家の家督を継いだ弟の娘であるエリアナだった。
あれほど弟が待ち望んだ子供が精霊眼持ちではなかった事を知った時、ギュントの口元には昏い笑みが浮かんでいた。そして皮肉にもその弟の愛娘であるエリアナは、性格や行状を調べれば調べるほど、これほど偽りの聖女にふさわしい少女は他にはいないと、彼に確信させた。
自分の欲望を優先し、邪魔なものは全て排除する――そういう意味で、ギュントとエリアナはとても良く似ていた。
精霊も、実の姪であるエリアナも、ギュントにとっては野望を叶える為のただの道具で、替えが利く消耗品でしかない。邪魔になれば躊躇なく切り捨てるだけの事だ。
(ふむ。この間新しく入った若い修道女、あの少女なら従順で扱いやすいかもしれんな)
再び静けさを取り戻した居室で、エリアナに代わる次の聖女に誰を据えるのか、ギュントは早くも考えを巡らせはじめていた。
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