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子猫になった気弱魔導士は猫嫌いの氷の宰相に愛される  作者: はんぺん


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36/200

36話

 深い眠りの底にあったアイカの意識が浮上したのは、すぐ近くから人の話し声が聞こえてきたからだった。


 完全に眠りから覚めておらず、まだ意識がぼんやりしているせいで、断片的に聞こえてくる話の内容はほとんど頭に入ってこなかった。だが、自分が一時的にどこかで保護されるという部分だけは、なんとなく理解できた。


「彼女の部屋は、そうだな――三階の俺の部屋に一番近い客間を使うとするか」


 ようやく覚醒し始めた彼女の耳が、若い男の声を拾う。


(この声、どこかで聞いたような‥‥‥?)


 ぼんやりと考えているうちに、声の主が立ち去ろうとする気配がした。


「にぃ!(まって!)」


 だが、反射的に呼び止めようと発したその声は、いつもの自分の声ではなかった。


(今の声は、なに?!)


 驚きのあまり一気に意識が覚醒する。はっとして見開いた瞳に映ったのは、恐怖を浮かべた顔でこちらを見つめるレイザックの姿だった。


(どうして宰相様が目の前にいるの?――いえ、それよりも、これは一体どういう事なのかしら?)


 〈氷の宰相〉に見下ろされている事に驚き口元にあてた手は、柔らかそうなふわふわの黒い毛で覆われている。見れば、手のひらには桜色の肉球が付いており、黒い体毛に覆われた体の先には、くるんと巻かれた長い尻尾が鎮座していた。


『私は、一体どうなってしまったの?』


 驚いて発した声が人のそれではなく、猫の鳴き声だったことで、彼女は更に混乱した。


「落ち着け、アイカ嬢。あまり動き回ろうとすると籠から落ちてしまうぞ」


 そんな彼女を我に返らせたのは、先に冷静さを取り戻したレイザックの声だった。


「君の身に何が起こったのか、今から説明する。だからとりあえず落ち着いてくれ」


 そう言って彼女を宥めたレイザックは、人払いをして音声遮断の魔道具を作動させると、彼女が気を失ってから今に至るまでの事を話してくれた。


(まさか、私が禁忌魔法で魔物にされただなんて)


 にわかに信じがたい話ではあるが、今の自分は子猫そっくりの魔物になっているらしい。実際に自分の体を見ると、全身が黒い体毛で覆われていて、耳と尻尾まで付いているのだから、事実だと受け入れるより他なかった。


 レイザックの話では、アイカ以外にも魔法をかけられたと思しき人が複数いるが、彼らはみな狂暴な魔物の姿に変えられて、人だと気づかれぬまま討伐されてしまった可能性が高いという。


(リーラさんに助けられなければ、私もそうやって人知れず殺されていたかもしれないのね)


 そう考えたアイカは恐ろしくなって身震いした。


 魔物に変えられた他の人も、自分と同じように聖女が持つ杖の秘密を知ったせいでそんな(むご)い目に遭わされたのだろうか?


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