29話
「襲撃犯はこの魔石を使って禁忌魔法を発動した、という事で間違いはないのだな?」
レイザックが机の上に置いた魔石はリーラが襲撃犯から取り上げたもので、表面にはびっしりと精霊言語が刻まれている。
「ええ、そうよ。しっかり見ていたから間違いないわ」
『この魔石には、精霊を無理やり使い潰して集めた強い恨みや嘆きの残滓を感じる。まことに忌むべき代物よ』
リーラの横にいたシルカが魔石を覗き込んで、不愉快そうに前足で何度も床を蹴った。パニちゃんやキールも同様に怒りを露わにしている。
「ふむ。よくよく確かめてみると、この精霊言語は魔法によって魔石に転写されたもののようじゃのう。おそらく、もともと禁忌魔法を発動するための文言が刻まれていた何かが別にあって、犯人たちはそこから複製したのじゃろう」
「つまり奴らは、禁忌魔法を量産できるという事か」
レイザックが顔色を曇らせる。
「襲撃犯の男はこの魔石に魔力を流して禁忌魔法を発動していたわ。魔法使いが、精霊言語を刻んだ媒体に魔力を流して魔法を発動するのと同じ仕組みね。でも、あれだけ強力な魔法を使うとなると、相当に大きな魔石か、魔力密度が濃い魔石を用意する必要があると思う」
禁忌魔法の負荷が高すぎたのか、男から奪った魔石には大きなヒビが入っている。こうなってしまうと、どんなに魔力を注いでも魔石が反応することは二度とないため、使い回す事はできないだろう。禁忌魔法を発動するための魔石は、一度使ったらそれっきりの使い捨てだったようだ。
「ふむ‥‥‥。そのような条件を満たす稀少魔石はとても個人で用立てられるものではない。おそらくお前が捕まえた実行犯の背後には、大きな組織がついていると見るべきじゃろう。じゃが、仮に国家規模の犯罪組織だとしても、禁忌魔法を使うたびに魔石を使い捨てて新たな稀少魔石を用意するのは相当に難しいはずじゃ。よって、今後もこの物騒な魔法が使われる可能性はかなり低いと見て良いのではないかのう?」
「だとしたら、少しは安心できるわね」
だが、そんなモルドの意見にレイザックが異を唱える。
「それはどうだろうな。逆に犯人たちは長い時間をかけて禁忌魔法の使用に耐えうる魔石を集めていて、それが相当数確保できたからこそ、このおぞましい犯罪を実行に移したとも考えられる。もしそうなら今後も同じような事が起こる可能性が高いと思うが」
「嘘!じゃあこれからも、こんな危険な魔法が何回も使われるって事?!」
「確実にそうだとは言い切れない。だが、最悪の可能性は考慮しておくべきだろう」
思わず声を張り上げたリーラに、レイザックが重々しく告げる。
「やれやれ。そうとなれば、黒幕となる組織を一刻も早く見つけなければならんのう。二度と禁忌魔法を使えんようにして、アイカ君を元の姿に戻さねばなるまいて」
「もしこの子の姿を戻す事ができれば、本人から直接、どうして命を狙われたのか聞けるのだけれど、シルカの力でも解呪はできないっていうし‥‥‥」
雌鹿の姿をした光の上位精霊は、申し訳なさそうに項垂れている。
「モルド殿、あなたの魔法で、襲撃犯から何か聞き出す事はできませんか?」
「それはどうかのう?催眠魔法でもダメなら、あとは依頼主の名を明かさぬためにかけられている契約魔法を解くしかないが‥‥‥」
「何とか試してもらえませんか?」
「ふむ。まあ一応はやってみるが、あまり期待はせんでくれよ?」
モルドが腰をとんとんと叩きながら立ち上がった。
「それなら私も一緒に行くわ」
「いや、その必要はない。わし一人で大丈夫じゃ。それよりも、お前はレイザック殿と一緒にここに残って、アイカ君を守っていておくれ。もし彼女が目覚めたら、猫嫌いのレイザック殿に代わってこの状況を説明できるのは、お前しかおらんからのう」
「言われてみれば、確かにそうかも」
「なあに。そう時間はかからんじゃろうから、二人はここで茶でも飲んで待っていておくれ」




