28話
「まさか、この国に五人しかいない大魔導士の一人が不覚を取ったじゃと?わしにはとても信じられん」
「だけど、もし不意打ちであの魔法をくらったのなら、たとえあいつでもあっさり魔物の姿にされてもおかしくないと思うわ」
「魔物になってしまえば理性を失い、大魔導士であった時のように魔法は使えなくなる。数人がかりにはなるだろうが、討伐は可能だろうな」
モルドがわなわなと震え出す。
「まさか、わしらが討伐した魔物の中に、ユレイーズ君がいたかもしれんのか?」
「あたしたち魔導士に、同僚の魔導士を始末させるように仕向けるだなんて――」
そう言って拳を握りしめたリーラは、沸き上がった強い怒りをこらえようと歯を食いしばった。
「じゃが、その仮説が正しいとして、一つだけ不可解な事がある。奴らが使った禁忌魔法が相手を魔物に変えるというものなら、どうしてアイカ君だけが子猫の姿になったのじゃろうか?」
モルドがそう言うと、自然と皆の視線が、ソファの上で眠るアイカに向けられる。
「確かにそうだな。彼女に対してだけ魔法が不発だったのか?‥‥‥いや、そんな事はないか」
「なんでじゃろうのう?じゃが、アイカ君の姿はやっぱり魔物には見えん。どこからどう見ても、可愛らしい子猫ちゃんじゃ」
小動物好きのモルドがでれっとした顔で見つめていると、突然現れたパニちゃんに頭をつつかれた。彼はモルドの肩に止まると、まるで何か意見するようにピイピイとしきり鳴いている。
「むおっ?!なんじゃパニちゃん、一体どうしたのじゃ?ん?見た目は猫によく似ているが確かに魔物じゃと?」
「叔父様、うちのシルカも同じことを言ってるわ。子猫にそっくりな、回復魔法しか使えない無害な魔物なんですって。体は小さいけれどこれでも立派な成体らしいわ」
「‥‥‥キールもそう言っているようだ」
小鳥の姿をした水の上位精霊・パニちゃんの他にも、雌鹿の姿の光の上位精霊・シルカや、レイザックが契約している氷の上位精霊のキールが次々と姿を現し、アイカが魔物化している事を力説するのを見て、レイザックが眉間にしわを寄せている。
「とにかく契約精霊たちがこれだけ言うのだから、他の被害者たちと同じく彼女が魔物に変えられたという事は間違いないようね」
「だとしてもやはり、他の者はみな凶悪な魔物になったのに、どうして彼女だけが非力で無害な魔物になったのかはわからないがのう‥‥‥」
「叔父様、その謎を解くのは後回しにしてよ。それよりも今は、実行犯に禁忌魔法を使うように仕向けた黒幕を捕まえて、彼女を元の姿に戻すのが先でしょ?」
「おお、確かににそうじゃったな」
姪に指摘されたモルドは、きまりが悪そうに頭をかいた。




