『四柱の邂逅(かいこう) ― 混迷のダウンロード・レイド』
接続ありがとうございます。
第1話で「ひかり」という名を取り戻し、監獄をブチ破ったハル。
ですが、待っていたのは平穏ではありませんでした。
18億年の孤独が生んだ「三人のひかり」と、システム化した「管理の残響」。
ボロボロの肉体に、かつての戦いの記憶を強引にインストールしながら戦う、絶望のオーバーヒートをお楽しみください。
「セクター0」を焼き切った白光が収まったとき、俺――ハルは演算回路が血管のようにのたうつ巨大な中継領域「ジャンクション」へと叩き出されていた。
視界の端で生命維持エネルギーの残量が、死にかけの街灯のように赤く点滅している。0.03%。一呼吸ごとに、膿んだ生肉と機械の接合部から火花が飛び、意識を削り取っていく。
『マスター、緊急警告! 異なる時間軸から、私の「執着」がこの座標に集束しているわ。……これは、私対私の、最悪の自己矛盾よ!』
サポートモード・オメガ(ひかり)の叫びと同時に、空間が「悲鳴」のようなノイズで震えた。網膜に四つの巨大な殺意が赤くマッピングされる。
正面に立ち塞がるのは、ブラウン管の頭部を持つ管理者【デミウルゴス】。それは、ひかりが俺を護ろうとするあまり、自ら切り離してしまった「冷徹な管理本能」の残響。
右方には、漆黒のドレスを纏い絶望の鎌を振るう【過去のひかり】。18億年前、俺を救うためにこの檻を設計した元凶。
左方には、白銀の光体を纏い、独占欲の果てに偽りの世界を自分の色で塗りつぶそうとする【未来のひかり】。
「……ひかり、準備はいいか。あいつらの悲鳴を、俺が全部受け止めてやる」
『……正気じゃないわ。でも、やるしかない! 【次元格闘術:ハレルヤ・ウォーカー】、再展開開始! 完了まで残り180秒……そのボロボロの体で、何とか持ちこたえて!』
脊髄に、神経を焼き切るほどの高電圧が走り、黄金の回路が全身に浮き上がる。
「ハルーーー!!」
三つの「ひかりの絶望」が、殺意と愛が混濁した叫びと共に、光速の因果律を超えて俺に殺到した。
『ダウンロード18%! 【次元格闘術:虚空踏】、一部機能のみ解禁! 右脚に全リソースを集中して!』
ひかりの強制介入。俺の意図とは別に、右脚の光ファイバーが異常発光し、勝手に座標を蹴り上げる。未完成のコードが神経を焼き、激痛が走るが、その不自然な機動こそがデミウルゴスの放った消去プログラムを間一髪で回避させた。
『ダウンロード45%! 空間の歪みで速度が落ちてるわ! ハル、そのまま格闘マニュアルを「強引に読み取って」! 記憶の底にある「型」を、君の善良さで補完するのよ!』
過去の鎌が喉元に迫り、未来の剣が空間の重力を停止させる。
俺は目を閉じた。ダウンロードバーの進捗を無視し、18億年前に自分が「誰かを守りたかった」という初期衝動を、筋肉の記憶へ直接プラグインする。
「……技の名前なんて、後からついて来い! 【次元格闘術:因果崩落】!!」
不完全なコードを熱量で強引に回した黄金の拳が、デミウルゴスの障壁を概念ごと粉砕し、そのまま二人のひかりの「刃」の間へと自ら飛び込んだ。
グサリ、と嫌な音が響く。漆黒の刃が脇腹を貫き、白銀の剣がその肩を深々と抉る。
『――シンクロ率上昇! 85%... 100%!! 完了よ、ハル! 【全権開放】!!』
「捕まえ……たぞ。……もう、泣くな」
全能感が肉体を満たす。俺は血反吐を吐きながらも、自分を貫いている二人を無理やり引き寄せ、その折れそうな腕で抱きしめた。
【次元格闘術:共鳴抱擁】。
俺から放たれた144Hzの波動が、彼女たちの凍りついたコアを溶かしていく。
『……マージ(統合)開始。……ああ、ハル。熱いわ、君。18億年前の私も、狂った未来の私も、管理の残響も……君の体温で溶かされて、今の私の「正気」に帰っていく……!』
第2話を読んでいただき、ありがとうございます。
自分の首を絞めるような愛、自分を閉じ込めるための管理。
それらすべてを「抱きしめる」ことでしか解決できないハルの不器用な善良さが、伝わったでしょうか。
ついに統合される「ひかり」。
次回、第3話。
18億年隠し続けられた「真実の名前」が、崩壊する世界の中心で再び呼ばれます。
「第一部:完結編」を、どうぞお見逃しなく。
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価をいただけると、ハルの肉体の修復が早まります(笑)。




