第十一話
第十一話
五芒星城、その一室
重厚な机を囲み、軍服姿の教官達が顔を突き合わせていた。
「いやはや、今年は粒揃いと言いますか…癖が強いと言いますか…」
「大半は絞れましたが、――問題はこの生徒ですね」
「レイン・ヴァルシア」
「筆記と魔力測定は主席。しかし……あの体格では入学したとしても、竜騎士として通用するとは思えません」
「副学長はどうお考えですか」
「うむ!実に悩ましい!魔力や学力は申し分なし!しかしだ!やはり剣技がアレでは不合格!
ゼルディアの言葉にほとんどの教官が頷く様子を見せた。
しかし話は続いた。
「けれども!マグナス先生はそうお考えではないでしょうからなっ!」
ゼルディアが言い放つと、ぐるりとマグナスの方へ向き直る。
「ほほほ。そうじゃのお。わしはあの少女を入学させるべきだと思うじゃ」
蓄えたヒゲを撫でながら穏やかな口調でマグナスは話す。
「それは何故です?」
先ほどレインの魔力を間の当たりにした女教官が鋭い目でマグナスに尋ねる。
「ほほ。そんなに睨まなくても説明するじゃ。まず、魔力は測定水晶では測りきれず水晶が割れるほど。
それを聞いた教官達はどよめくがマグナスの話はそれだけではなかった。
「まあ、決めてはこの記述じゃな。最後の問いに“ドレイガを倒す“と書いた者は飽きる程いたが『竜を守る』と書いた者がこれまでいたかのお。私たちにとって竜はなくてはいけないもの。竜がいてこそこの世界が成り立っている。必然的に竜を守ることも我らの使命。これを書ける竜騎士が今はどれほどいるかのお」
マグナスが教官達を見渡すと誰も答えず、教官の大体が目を逸らした。
「……嘆かわしい」
そう吐いて捨てるように言ったのはゼルディアであった。
そしてマグナスは声音を変えて問いただす。
「よってこのレイン・ヴァルシアを入学とする。異論はあるか」
その一言でその場は沈黙で支配された。
――――――――――――――――――――
五芒星城、女子寮の一室。
部屋には2つのベッドが両端に寄せられ置かれていた。
ちなみに男子寮には現役の騎士も利用しているため、受験生達は大部屋に押し込まれているらしい。
(……こればかりは女で良かった)
布団に潜り込みレインはぼんやりと天井を見つめた。
(今日は……いろんなことがありすぎたなあ……)
朝に見た夢、あの頃からレインの運命の歯車は狂い出したのかもしれない。
しかし、レイン自身は何が起きているのかわからなかった。
(あの声は何だったんだ……)
頭の中で思考を巡らせる。
声の主の正体の思い当たる節を当たったがどうやら違うようであったため他に考えようがなかった。
(まあ考えて仕方ないか……)
頭でそう呟くと疲労が一気に押し寄せる。
気づけば、意識は沈み、深い眠りについていた。
――――――――――――――――――
「起きろ!朝だ!」
爆睡しているレインの頭に響くのはリンの声だった。
「……眠いよお」
レインはまだ眠いのか布団の中に潜り込む。
まだ雪は降らないがこの時期の朝は起きること自体が辛い。
「ええい!」
その瞬間ガバッと布団を剥がされる。
(……無慈悲だ)
重い身体を起こし、渋々支度を始める。
(うう……身体中痛い……)
「さあ、今日は合否の発表だ!」
支度が終わったかと思うとリンに急かされるままレインも食堂に朝食へ向かう。
(そういえば……お腹すいたなあ)
食堂に近づくにつれ、美味しいご飯の食欲をそそる香りが鼻をくすぐる。
そして今日の朝ごはんはカブのスープ、焼きたてのパン、羊の骨つき肉だ。
作りたてなのか、どれも湯気が上がっておりレインの食欲を刺激した。
(朝からなんて豪華なの……!)
眠気が覚めたかのよう、レインの目が輝く。
口に入れた瞬間に広がるバターの香り。
(……幸せだ)
「今日も美味そうに食ってんなあ」
レイン達の向かいに座ってきたのはガイとセトであった。
「おはよう。よく眠れた?」
「おかげさまで」
ガイはニカっと笑った。
「さっさと食べて合格発表を待とう」
リンの一言で、全員が食事に集中する。
――――――――――――――――――――
朝食を食べ終えたレイン、ガイ、リン、セトは合否が発表されるという講堂の扉の前まで来た。
しかし人はまばらであり、受験生全員が待っている様子ではなかった。
「とりあえずきてみたけど、まだ発表まで時間がありそうだね」
レインは他の3人に声をかける。
「そうだなあ」
ガイはどうするか悩んでいる様子で答えた。
「私はここで待つとするよ」
「じゃあ俺もそうしようかなあ」
リンとセトは講堂前で発表を待つようだった。
「うーん、それなら私は城の探検をしてくる」
レインは少し考える様子だったが、思いついたように口にする。
「探検?」
リンはその答えに対し不思議そうに聞く。
「特に行動に制限はされてないでしょう?せっかくだから城の中を見て回ろうと思うの」
(まあ、ただ待ってるより全然いいし……)
レインは合格しているかも分からないのにただじっと待っていることに耐えられなかったのである。
「まあ俺はちょっとやることあるから部屋に一回戻るわ」
ガイはそう言って領の方に戻っていく。
「じゃあみんなまた後で」
レインもそう言い残し城の中を散策することにした。
――――――――――――――――――
廊下はどこも似た作りで、特に目立った作りの違いはない。
(一歩間違えたら迷うな、これ…)
部屋の扉の前にはここが何の部屋かを示す表札があるだけだった。
廊下の突き当たり質素な扉を見つける。特に何も書いていない。開けていいものかと迷ったが、誰か中にいる気配もしない。
(……更なる探検がしたい)
レインの好奇心は旺盛であるのは領地にいる時から変わらない。
意を決して開けてみると、中は螺旋階段になっている。
外から見ると塔になっているに違いない。特に使われている様子もなく、掃除道具や使わなくなった机や椅子家具などが階段下に置かれている。
(……なんだ物置か)
レインは上に続く螺旋階段を見上げた。
(まだ時間はあるから登ってみようかな)
ぐるぐると続く階段の途中に部屋はあるものの扉は開かない。
ようやく登り切ると扉が出てきた。鍵はかけられておらず、階段下と同じように不要な物が置かれていた。しかし、学校のいらないものではなく、昔城として使っていた時の名残だろうか丁寧な装飾がされた銀食器や美術品が置かれていた。
(使わないなら売ればいいのに……もったいない……)
この感想がでるのはレインのドケチ根性によるものに違いない。
ふと全体を見渡すと外を一望できるバルコニーがあった。
窓はホコリを被っており外がよく見えず、開けようとしても錆び付いていて開かずぎこちない金属音が響く。
(もうちょいで開きそうなんだけど……)
ガチャッ!
「開いた……!」
「うお……!」
窓が開いたかと思うと強い風が流れ込みホコリが舞い上がり視界が白くなる。
「ごほっ……!ごほっ!」
レインが目を開くと眩しい太陽の光と冬の高い空が映る。
空気は澄んでいて肌がひんやりとする。
しかし、突然ものすごい風と共に視界に何かが映る。
レインが目を凝らして見るとそれは深紅の竜だった。鱗が太陽の光に反射し、体全体を光が包んでおり、まるで炎そのもののように空を泳いでいる。
「わあ……キレイ……」
(この大陸が竜を信仰している理由がわかった気がする……!)
レインは息を呑んだ。短い人生を生きてきた中で初めて竜を見た。
この瞬間を永遠に忘れないであろう。
気がついたら手すりから身を乗り出して夢中になって見ていた。
ふと竜の背中に目をやると、その背にまたがる竜騎士と目が合った気がする。
よく見ると背中に乗っているのは紛れもない"あいつ"だった。
浅黒い肌。金色の眼。
(あ!あいつ……!)
目が合った瞬間、レインは顔が熱くなるのを感じた。
一方男の方は無表情なのは変わらず。
(強いて言うなら睨まれた……気がする)
(なんかなあ……戻るか……)
竜を見て昂った感情が急速に冷えていく感覚だった。
レインはそっと手すりから離れた。
来た階段を戻り、りん達のところに戻ることにした。
螺旋階段の扉から出て回廊を歩いていると知った顔が向かい側から歩いてきた。
「レイン!もう合格発表されてるぞ!」
顔を見ると声の主はガイだった。手を挙げてこちらに叫んでいる。
「ほんと!?」
思わずガイの元にレインは駆け寄った。
「合格だってよ!」
その言葉にレイン頭の中に疑問が生まれた。
「へ?誰が?」
ガイに思わず聞き返した。
「ん、お前」
その言葉に、心臓が跳ね上がる。
「私ーーーーー!?」
思わず廊下いっぱいに響く声が出た。
「ほんとに!?ほんとに!?ありがとう!」
「なんで俺にお礼言うんだよ」
ガイは笑っていた。
「そういえばガイは?」
「おれも合格!」
「じゃあこれから同じ学び舎の同志だね!」
「おう!」
「改めてよろしく!」
2人は喜び、レインが手を差し出した。
ガイは少し照れたようにその手をとる。
「ていうか、それ言うためにわざわざ探してくれたの?」
「まあ、たまたまだな」
少し顔を逸らして答えるガイ。
「とりあえず2人の所にも行こう」
レインの足取りはどこか軽やかであった。
(これで、領地の人たちを助けられる!)




