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美少女クシナちゃんの雑貨屋~呪いしか鑑定できませんが、問題あります?~  作者: なすちー
第四章

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61 美少女クシナちゃん、いざ深層へ

 とうとう、決行の日がやってきた。


 極めて、本当に極めて不本意だが、私が迷宮の最深部へと赴く日だ。


 作戦はこうだ。


 まず、ハサミが先に迷宮へと侵入する。

ハサミが迷宮内にある「自身の私室」だか何だか知らないが、その場所にいないと、私たちを転移させることができないらしい。


 もっとも、迷宮の中にいるハサミと、街にいる私たちとでは連絡の取りようがない。

だから、私たちはいつ、いかなる瞬間に急に飛ばされるか分からないというわけだ。


 そのために、事前準備は万端に整えた。丸呑みちゃんには回復薬や食べ物、飲み水、それにナイフなどを数種類しっかりと詰め込んである。


 ハサミいわく、そこまでモンスターの危険はないとのことだったが、念のためにいくつかの呪物も持ち込むつもりだ。


 いつ転移させられるか正確な時間が分からないため、いつでもアニマちゃんを道連れ……ではなく、一緒に転移できるよう、すぐ傍に待機させている。


「よーし、クシナっち。私も準備おっけーだよー!」


 アニマちゃんは今回、私の『丸呑みちゃん』に荷物を預けているおかげで、かなり身軽な装備にまとめていた。


 よく分からないけれど高級そうな革の防具に身を包み、腰には小ぶりな剣が二本。背中には、伸縮性のある折り畳み式の仕込み杖のようなものを背負っている。


 ちなみに私は猫耳フードのパーカーを着ている、一応その中に打撃や斬撃に強い素材の革のチュニックのようなものを着ている。アニマちゃんチョイスで軽いわりに丈夫で頑丈らしい。

下手に重い金属鎧などの装備で固めるよりかはこの方がいいらしいとのことだ。


 今回転送される場所は、迷宮の二十二階層にあたる広間らしい。

そこから次階層への入り口は、すぐそばにあるということだった。


 現在、人類が足を踏み入れた最深部はまだ十五階層だ。そこから数えても、いかに深い場所へ飛ばされようとしているかがよく分かる。


 そして、迷宮の(コア)があるのは二十六階層。

つまり、二十三階層からは自力で進む必要がある。


 かなりの危険を伴うはずだが、道案内にはハサミが加わってくれる手はずになっている。


 もっとも、彼女自身が案内できるのは二十四階層まで。二十五階層は「聖域」のようなエリアらしく、呪いであるハサミ自身も踏み入ることができないし、中の様子も不明なのだという。


 私はアニマちゃんの方を見ながら小さくため息をついた。


 本当に博打のような話で嫌になるけれど、今更やめるなんて言っていられない。

実際のところは行かなくていいのなら、行きたくはないのだけれど。


「私の顔を見てため息をつくのは、あんまり良くないと思うな」

アニマちゃんが私を見つめながら、いつも通りの軽い調子で言った。


「いや、違うのよ。アニマちゃんに対してどうこうっていうんじゃなくてね」

私は言葉を濁しながら、猫耳フードの端を指先でいじり、居心地が悪そうに視線を泳がせた。


「いざ当日ってなると、本当に面倒くさいというか、体が重いというか。そんなんだから、ついついため息が出たのよ」


「でもクシナっち。もし成功すれば、一躍この街の救世主だよ。それに裏技とはいえ、『迷宮最奥部到達者』の称号まで手に入るんだから」

アニマちゃんが夢を見るような瞳で語りかけてくる。


「そんなのいらないわよ……。そりゃあタダでもらえるならお金だって欲しいし、その称号や栄誉で店が繁盛するかもしれない。けれど、どう考えても割に合わないわよね……はあ」


 私は今日何度目かになる、深い、深いため息をついた。


「クシナっちなら、別に放っておく選択もあったんじゃないの?」


 アニマちゃんが少し間を置いて、私にそう問いかけてきた。


「本当、そうね。私だって、別の街に雑貨屋を移すことを考えなかったわけじゃないわ。……でも、しなかった。何でかしらね」


 私は自身の雑貨屋の何気ない空間を見ながら、自分でもよく分からない答えを口にした。


「ふーん。そっか。私は、嬉しかったけどね」


 アニマちゃんは、静かに笑いながらそう言った。


「そう……」


 私は、その一言だけを返した。



 ちなみに、今この場には探索者協会の受付嬢であるシエルちゃんも、教会の司祭であるシエスタちゃんもいない。


 万が一にでも彼女たちを巻き込んで、迷宮送りにしてしまうのはさすがに寝覚めが悪いからだ。


 本人たちは「そんなの気にしません!」なんて言いそうだけれど、まあ、無事に帰ってきたら高い食事やデザートでも奢らせよう。


 もちろん、この街の領主であるオスマン伯爵や、その三姉妹のマーガレットたちには事情を伝えてある。支度金もしっかりと、それこそ十分すぎるほどにふんだくっておいたしね。


 そうこうしているうちに、いよいよ「その時」がやってきた。


 見慣れた光景――といってもまだ三回目だが、私を中心に足元から眩い光が溢れ出す。


 私は隣に立つアニマちゃんの手を握る力を、無意識のうちに少しだけ強めた。

そして一呼吸おいて、自分に言い聞かせるように、震えそうになる心を落ち着かせる。


 私は絶世の超絶美少女なのだ。これくらい、華麗にこなして見せて当然だわ。


「美少女なら、何だってできるわ。当たって砕けろよ!」


「砕けちゃダメだってば……」


 そんな、いつも通りの締まらない会話の最中。

私たちの姿は、まばゆい光と共に雑貨屋から掻き消えた。


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