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火を守り継ぐ者  作者: 夜間燈
一章 異変の足音
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二十四話 家という名の鎖

 トモシは頷くと、さゆの体に飛び込んだ。さゆの目が竜のような青い瞳孔に変わり、手足の先や喉元が赤い鱗に覆われていく。爪は緋色に染まった。頭には二本の角が生え、耳の形も三角形に近くなった。短い丈の霊袴(体の形により近い馬乗り袴)から赤色の尾が飛び出る。


 二人とも同化したぞ、と宗久は思わず溢した。千次郎は興奮のあまり、横にいる清の体を揺すっている。

「……全力で行っせ、トモシ」

 さゆたちは刀を持つと、夢乃たちを見た。夢乃たちはさゆたちを見ると、頷き、走り出す。


 さゆたちは黒い煙を口から吐くと、煙の中に紛れた。夢乃たちは煙を吸い込まないようにしながら、目を光らせてさゆたちを探す。すぐに見つけ、彼女たちのいる場所に向かって生み出した石を飛ばした。


 しかし、石はいずれも煙を掻き切っただけだった。

 夢乃たちは刀を素早く研ぎ、さゆたちを見た。


 さゆたちは突進してくる夢乃たちを見ると、近くにあった木に跳躍した。夢乃たちはその木を突進でへし折ると、さゆたちを見る。さゆたちは木から飛び降りると、刀を素早く構えた。


 夢乃たちはさゆたちを見ると、すぐに離れる。すぐに姿勢を立て直さないと、と思った刹那、殺気を背後から感じた。夢乃は慌てて石の壁を作って背後の防御を固める。

 しかし、その壁をさゆたちは飛び越えた。そして夢乃たちとの間合いを縮めると、素早く剣を突き出す。夢乃たちは同じく剣を持ち替えてそんなさゆたちに対抗しようとした。


 経験のある夢乃たちの反応の方が僅かに速かった。


 夢乃たちの剣が彼女たちの体に突きつけられる。その瞬間、さゆたちの体が大きく揺れ、煙となって夢乃の周りを覆った。嵌められた、と気が付いた時にはすでに視界は白く染まっていた。夢乃は慌てて辺りを探るが、煙の中でうまく動けない。


 夢乃は剣を握ると、煙の中をがむしゃらに走ろうとした。

 そして――煙が晴れた時には、すでに同化を解いたさゆが夢乃たちの喉元に刀を突き付けていた。

「一本! さゆとトモシの勝利!」

 夢乃は同化を解くと、項垂れた。悔しいけれども後悔はなかった。フジコマさんを撫でながら、夢乃は徐に立ち上がる。


 おめでとう、と声にならない声で伝えると、夢乃はゆっくりと立ち上がり、歩き出した。


「うーん。夢乃はどっちかっていうと、銃とか弓矢の方が得意そうだけどな」

 さゆの言葉に夢乃は立ち止まり、首を横に振る。そして何かを気にするように、暁のいる方を見た。


 夢乃は家柄で判断されるような人じゃない、さゆはそう思っている。さゆは堪らなくなり、叫んだ。

「雛松家が剣才に恵まれてるからって、生まれてくる子がみんなそうなの? そんな訳ないじゃんか! 親と子なんてあくまでも他人でしかないんだよ!」

 夢乃は目を見開いてさゆを見た。すると、夢乃を呼ぶ怒鳴り声が響き渡った。


 さゆは戻ってきた男を睨みつけた。彼が声の主であるのは明白だった。その目は怒りに塗れている。

 男は猛烈な勢いでさゆたちの元にやって来た。おそらく他の者から試合結果を聞いたのだろう。


 さゆはすぐに口を開いた。男に向かって。

「何勘違いしてんのか知らないけどさ。お前ができること全部夢乃ができるわけないし、その逆だってある。現に、お前の方が人としてなってない」

 暁が慌てて男を追いかけた。すると男は、夢乃がどれほど至らないかを熱弁し始めた。夢乃はずっと俯いていた。

 一方的な罵詈雑言としか言えない内容。竜の兄弟が気に食わない者の中には、仕方ないなとでも言うような目をこちらに向けている者もいた。


 しかし、竜士隊の者たちは全員、これには閉口した。竜の兄弟を気に入っている者たちも呆然としている。


 すると、鈍い音が響いた。

 見るとさゆが男の頬を殴り飛ばしていた。さゆは男を見ると叫んだ。

「次の試合邪魔してほしくないから言っておくけど、お前のその態度、誰よりも酷い!……夢乃を見習え!」

 さゆは男に向かって人差し指を突き出した。暁は勢いよく頷くと、息を深く吸った。


「さゆの言う通りだ! テメエ、黙って聞いてりゃ、『雛松家の恥』だとか不愉快なこと言いやがって! 夢乃からしたらテメエの方が汚点だわ! 失せやがれ!」

 男は二人を睨みつけた。さゆたちも男を睨み返す。すると、竜たちが互いの顔を見合わせた後、じっと男を見た。その目には怒りすら籠っていた。


 最初に走り出したのはフジコマさんだった。フジコマさんは男を見ると、体を牛ほどの大きさに変化させ、男に襲いかかった。


 まるで鬼のように厳つく、獅子のように猛々しい表情だった。フジコマさんは男を睨みつけ、その長くなった牙を向ける。

 地獄の車を引く犬を全員が思い出した。逃げた悪人の魂を絶対に捕まえ、地獄送りにする犬。

 もしも本当にいるとしたら、おそらく今のフジコマさんとそう変わらない姿をしているのだろう。

 それで腰を抜かした男を、トモシが翼で叩こうとした。振り落とした翼は男の目の前の地面に深いひびを生やしただけだったが、それでも破壊力の高さが窺える。ライメイもライメイで、突進してやろうと体の大きさを馬ほどにし、男の出方を探っていた。


 さゆは男の胸ぐらを勢いよく掴む。

「アンタ、夢乃の父親なんでしょ? だったら、本気出せるようにしなきゃ駄目じゃん。なんで萎縮させてんの?」

「テメエ、夢乃の得意なこととか好きなことも分かんねえんだったら、父親名乗んなや。世の中の父親全員に失礼なんだよ」

 二人の子供と竜たちに詰め寄られ、男はあれはアイツのためだと弁明するが、それは事態を悪化させただけだった。お前のための間違いだろ、と怒鳴るさゆ。暁も暁で、我が子を容赦なく睨みつけることのどこに愛情があるのか、というようなことを早口で捲し立てた。さゆも暁も有無を言わせない強硬な態度をとっていた。


 このままでは埒があかない。しかし、この状況はおそらく止められない。

 すると義輝が歩いてきた。


「おいおい。次の試合控えてんだ。少し落ち着けよ。……自己紹介なしに話しかけるべきじゃなかったな。俺は雛松義輝だ。兄弟はハヤカゼ」

 さゆたちは義輝を見ると、頭を下げた。しかし、男は今大事な所だと引こうとしない。義輝は舌打ちすると、子供たちをこちらに呼び寄せた。


 その瞬間、男の体が地面に強く叩きつけられた。

 義輝が背負い投げをした、という事実を知るのに、誰もが時間を要した。


 義輝はやれやれと言うと、夢乃を見た。

「夢乃。フジコマさん。……最後のほんの一瞬だったが、本気のお前たちをかっこいいなと思った。……お前たちはみんなが言うほど、弱い存在じゃない」

 夢乃は義輝を見ると、俯いた。

 弱くない? そんなわけない。だってずっと私は――。

「お母さんに褒められるようなこと、何もしてない……」

 夢乃は義輝に言った。さゆは夢乃を見た。

「さっきの試合は違うの? 私もたくさん努力したから、人並みに剣を使える。夢乃だってそうなんでしょ? 確かに向いてないかもだけど、それで頑張ったことは誇れることだよ」

 暁は頷いた。

「ただ、苦しそうだな、無理してるなって思ったんだよ。俺らは。お前の今までの努力を否定する気はねえし、むしろ尊敬してる。ただ……あんなに辛そうに剣を振るのを見るのは、耐えられなかったんだよ」

 夢乃は項垂れた。さゆは夢乃を見た。


「夢乃は夢とかあるの?」

 さゆの言葉に夢乃は顔を上げた。そして紙を取り出し、そこに何かを書いて渡す。

 ――ヒシュを守りたい。お母さんが死んだ理由を知りたい。

 それもありますが、と下に続く。

 ――今は、みんなに私のいることを認めてほしい。

 さゆは夢乃を見ると、満面の笑みを浮かべた。夢乃は安堵したようにさゆを見ると、フジコマさんを呼んだ。フジコマさんは夢乃を見た。


「……私たちは夢乃の強いところ、ちゃーんと好敵手として認めてるよ!」

 さゆは迷いなく言い、他の者たちも頷いた。

全ての話を一斉に変更しました。展開が変わっていたり、新たな話が追加されたり、キャラの名前が変更されたりしています。

急な変更をして申し訳ございません。

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