ep3:衝突と成長
夜のビル街。雨がしとしとと降り注ぐ中、櫻井彩香と最上瞭は、廃ビルのロビーに身を潜めていた。二人の前方には、強力なスキルを持った敵がじっとこちらを伺っている。
「どうする?私は一撃で仕留めるつもりだけど、クレセント・ムーンは再使用に時間がかかる。ミスしたら、次はないよ。」彩香は低く言いながら、瞭に視線を向ける。
「リキャストタイムがどれくらいだ?」瞭が冷静に問いかける。
「10秒。でも、10秒って戦闘中じゃめちゃくちゃ長いのよ!」
「わかった。お前が初撃を決めたら、俺がフォローする。バーサーカーの力を使って防御は俺に任せろ。だが、タイミングを間違えたら危険だぞ。あいつのスキルは『フェイズシフト』、身体を一瞬だけ無敵化できるんだ。」
彩香は拳を握りしめ、「わかってる!」と自信を持って応えたが、その瞳には焦りが見えた。
敵は急に動き出し、瞬間的に壁をすり抜けるようにしてこちらに迫ってきた。彩香はすかさず反応し、スキル「クレセント・ムーン」を発動。青白く輝く円月刀が彼女の手に現れ、その刃が敵に向かって光の軌跡を描いた。
しかし、その刃は空を切った。敵はフェイズシフトを発動し、瞬時に身体をすり抜けさせたのだ。
「くっ……!」彩香は歯を食いしばりながら後退する。「10秒、10秒耐えなきゃ……!」
瞭は即座にバーサーカーの力を使い、敵の攻撃を受け止めた。「大丈夫だ。お前は次の一撃まで集中していろ。こいつのスキルのクールダウンを見逃すな!」
敵は次々と攻撃を繰り出し、フェイズシフトの力で一瞬一瞬を無効化しては再び攻撃を仕掛けてくる。しかし、瞭はバーサーカーのスキルで受け流し、隙を伺い続けた。
「彩香、今だ!フェイズシフトのクールダウンが入った!」瞭が叫ぶ。
彩香はリキャストタイムが終わったことを確認し、再びクレセント・ムーンを発動。今度は正確なタイミングで円月刀を振り下ろした。鋭い閃光が敵の身体を貫き、血飛沫が宙を舞った。
敵はその場に倒れ込み、息絶えながらかすれた声で呟いた。「エンペラーズ・チェス…じゃないのか……」
彩香は敵を見下ろしながら、息を整えた。「終わった……」
その瞬間、彩香の手に奇妙な感覚が走った。倒した敵から、何かが自分の体に流れ込むような感覚。彼女の手が微かに輝き、敵のスキル「フェイズシフト」が自分のものになったのだ。
「これ……何?」彩香は驚きと戸惑いの表情で手を見つめる。
瞭が彼女の方に歩み寄り、軽く肩を叩いた。「倒した敵のスキルを手に入れる。それがこのゲームのルールだ。お前は今、フェイズシフトを手に入れた。」
「スキルを……手に入れた?でも、私もうクレセント・ムーンを持ってるわよ?」
「そうだ。持てるスキルは二つまでだ。新しいスキルを手に入れたら、今持っているどちらかを捨てなければならない。それがこのゲームの制約だ。」
「え?じゃあ次に何か手に入れたら……どっちかを捨てるってこと?」
瞭は頷いた。「そうだ。それに気をつけないと、強力なスキルを手に入れても、次の戦闘でそれを活かせないことになる。」
彩香は一瞬考え込み、クレセント・ムーンの光が消えていく手元を見つめた。「なるほどね……でも、次に新しいスキルを手に入れる時までには、どちらを捨てるか決めなきゃならないってことね……」
「その通りだ。だから、お前の選択が次の戦いを左右する。」
彩香は再び瞭を見て、軽く笑った。「じゃあ、これからも私に頼ってくれるってことね?」
「お前が頼りになる限りはな。」瞭も笑みを浮かべたが、その目は次の戦いを見据えていた。