39話 デンジャラスなドルチェ1 帝 嶺の憂鬱
気に入らない。気に入らない。気に入らない。
部屋の中をまるで動物園の檻の中の熊のように歩き回る。
帝 嶺はイライラしていた。
何が嶺をイライラさせているのかというと、オフを利用して行ったビーチリゾートへの旅行から帰ってきてから、瑠璃との距離感が気に入らないのだ。
ビーチリゾートからドキLOVE城に帰ってきて、瑠璃の肩を抱いて意気揚々と帰ってきたのだが、気分はバカンス気分のまま、瑠璃は俺の女だぜみたいな得意げな気分だった。だってあんなに愛しあったのだから当たり前だと思う。
城にいたみんなが
「お帰り~、攻略お疲れさま。」
「上手くいった?」
「旅行楽しかった?」
などと出迎えてくれて
(当たり前だ。俺が失敗などするわけがないだろう。プッ。)などと思っていたのだが、多分プッとか心の中で笑われているのは嶺のほうだったのだと思った。その事はプライドの人一倍高い嶺に耐えられない苦痛を与えた。
「お帰りなさい瑠璃。攻略お疲れさまでした。ここからは二人だけで過ごしましょう。君との時間を誰にも邪魔されたくないんです。さあ、私の部屋に行きましょう。ほら荷物をこちらに。私が持ちますよ。」
そう言って瑠璃の腰を抱いてさっさと嶺の腕から取り返すように連れて行ってしまったのだから。
「疲れていませんか?旅行楽しかったですか?
あまり焼けてはいないようですが、私が言ったようにちゃんと日焼け止めは塗ったのですね。君の白い肌に日焼けのシミなど出来たら大変ですから、海は紫外線が強いですから一年中気を付けなくてはいけませんよ。そうですか、いい子ですね。」
などと話しながら歩いているのを嶺は呆然と後ろについて歩いてしまった。
二人が話してる声が聞こえてくる。瑠璃は小さな声で「はい。」と返事をしたり、くすくす笑ったりしているが何を言っているのかまではか細い声で話しているので分からなかったのだが。
(海に行ったのだから日焼けくらいは当たり前だろう。確かに瑠璃はきちんと日焼け止めは塗っていたな、もっとも二日目以降は外に出る暇もなかったからそんなこと気にする必要もなかったと思うが。
なんで親みたいに色々口うるさく言ってんだよ。)
嶺は心の中で舌打ちをした。折角旅行に行って縮まった瑠璃との距離を他のメンバーに見せつけたい、旅行楽しかったね、とか肩を抱いて顔を見合わせて言ったりしたい。と思っていたのだ。
大和あたりに「いいなあ、楽しそう。なんか美味しいモノとか食べたの?」とか訊かれたりして。
とか思っていたのに、さっさと瑠璃を奪って部屋に直行とか。嶺には当てつけのようにしか感じられなかった。もっとも聖也も瑠璃が嶺と旅行に行っている間ずっと悶々として帰りを待っていたのだからすぐに取り返すのは仕方がない事だったのだが。一刻も我慢できず待っていられなかったのだから。
(感じ悪い。)そう思わずにはいられない。(チッ。)嶺は心の中で舌打ちをした。
しかも瑠璃も素直に応じて当たり前のように腰を抱かれて歩いていく。
振り返ることもせず。既に二人だけの時間感がそこには出ていた。
聖也の部屋の前に着くとドアを開けるときに聖也がチラッと嶺の方を見て、
そしてくすりと笑うのが見えた。
(えっ?)嶺は端正な顔の眉間に思わず皺を寄せて眼光が鋭くなってしまう。
「瑠璃の好きな鯖の焼き寿司を買って来てあるんですよ。夕食は二人で部屋で食べましょう。」
そう言ってまた嶺の事をみて薄っすらと笑いを浮かべた。
それは、聖也からの「あなたには渡しませんよ。返してもらいます。」というメッセージなのか。
聖也は自分の身体で瑠璃を隠すように抱いたまま部屋のドアを開けて中に入ってしまったので、瑠璃が嶺の方を見ることはなく、どんな顔をしているかも見えなかった。
ムカッとしている嶺に後ろから修二が声を掛ける。
「なんだか惨めだね。帝 嶺がそんな顔してるの初めて見たよ。
聖也、今晩は夕飯要らないって。瑠璃と二人で食べるから俺たちの分は作らなくていいって。瑠璃は疲れてるから夕食作りも手伝えないからって朝から言われてたけど、部屋で二人きりで今から何する気なんだろうね。とか考えると辛いね帝。部屋に入るまでくっついてきちゃって。」
「ここは俺の部屋に行く通り道だ。ついてきたわけじゃないよ。たまたま道が一緒だっただけさ。廊下なのだから通るのは当然だろう。俺も自分の部屋に戻る途中だ。一緒に旅行から帰ってきたんだから部屋に戻るのが同じような時間になってもおかしい事じゃないと思うけど?」
嶺は敢えて明るく笑って答えた。
「そうなの?
それにしてはなんだか。」
「一緒に旅行から帰ってきてってとこが余計に哀れさを感じさせてる気がするのは僕の気のせいかな?」
ふふっと含み笑いをする修二が憎たらしくてたまらなくなったが。
我慢する。こんなとこで揶揄われて相手にしたら思うつぼだ。
しかし、修二はみんなと夕食をとっているときまで嶺を弄った。
「今頃瑠璃、聖也と何してるんだろうね。ナニかな。」
そう言って嶺の事を見てにっこりと笑った。
「帝はどう思う?」
嶺が詰まっていると冷泉が呆れたように口を挟んだ。
「下衆な想像をするのはやめろ。食事中だ。
それに俺の瑠璃に下衆な想像などけしからん。」
修二は冷泉の言葉にも臆せず
「誰が下衆な想像って言ったの?下衆な想像したのはそっちでしょ。」
「下衆だから下衆だと言ったのだ。顔が下衆な顔をしている。」冷泉がすました顔をして言い返す。
「ちょっとそれ失礼じゃない?仮にもアイドルなんだから下衆な顔なんかしないし、頭沸いてるんじゃないの?それに【俺の瑠璃】じゃないでしょ。いつ冷泉のものになったの?」
冷泉が憮然としていると修二はため息をつくようにつづけた。
「でも、二人ともヤキモチ妬かないの?
聖也今頃めちゃめちゃ抱いてるよ?
NTRっていうらしいよ。ネ・ト・ラ・レ。
他の男に寝とられてた女を寝とられてるとき悶々と苦しんでさ、
そうやって自分の胸に取り返してから抱くとめちゃめちゃ興奮するんだって。
聖也NTR癖になったんじゃない?NTR属性流行ってるらしいよ。
今頃熱く燃えてるんじゃ。多分昼間からずっとだよね。食事も取らせないでさ。」
思いっきり歯に衣着せず修二は言っていた。みんなが密かに思っていたけど口に出さなかった事を、嶺なんかそんな事考えないようにしていたのに。食事も取らせないでシてるとか、NTRは興奮するとか聞きたくもない話をつらつらと話し続ける修二。
「みんな平気なの?
僕、自分の番が来て、瑠璃と攻略したら、
ここにいるみんな、」
(ここで修二は一度言葉を止めて、溜め込んだ気持ちを吐き出すように続けた)
みんなの食事に毒入れちゃうかも。毒入れてみんなの事殺して瑠璃を自分だけのものにしたくなっちゃうかも。
不老不死だからもちろんそれは無理なんだけど。
でも不老不死じゃなかったら皆殺しにしちゃうかも。
僕だけのものにしたいから。」
物騒なことをさらっと言う修二の顔はへらっとして笑っていた。思ったことを素直に無邪気に話す修二はむしろ清々しいくらいだった。もちろん、みんなそう思っているのだ。瑠璃の事を自分だけのものにしたい。自分の事だけ見つめて欲しい。冷泉も聖也も帝もそう思っていた。思っているけど口には出さないだけだ。
そんな事お構いなしに修二は言葉を吐き出すのを止めなかった。
「みんなはそういうこと思わないの?
平気なの?
嫉妬とかしたりしないの?
今だって絶対瑠璃の事抱きまくってるに決まってるじゃん。
いいの?
それで」
と詰め寄るように言葉を繋いだ。
「もうやめろ、修二。やめてくれ。」冷泉が声を絞り出すようにつぶやいた。
「冷泉、【俺の瑠璃】が聖也にヤられまくってるのに良く平気で食事出来るね。」
冷泉の心の傷に塩を塗りまくるように言葉のナイフをつきつける修二。
修二の言う下衆な想像は辛すぎる。そのナイフは同時に嶺の心にも刺さってくる。
瑠璃のあんな顔やこんな顔を、自分だけに見せてくれたあの嬌態を思い出してしまい
今このときにも聖也に見せているのかと思ってしまう。
考えたくないのに。
多分冷泉も同じなんだろう。
冷泉の顔にも苦悶の色が見えたのだから。
しかも嶺が得したような気がしていたビーチリゾートの楽しかった攻略や熱い夜が聖也のNTR趣味の快楽を手助けするのに利用されている? まるで俺はピエロじゃないか、いいように踊らされたピエロが悲しい顔をしている、笑っている顔の下は本当は泣いているのだ。
自分の顔も悲しい眼をしているに違いないと嶺は思った。いくら取り繕っても今日は目まで笑える自信がない。今日は仕事入れてないから良かった。それにどうせメンバーとしか会っていない。俺が情けなく泣いていてもピエロの笑顔だろうと誰も気にもしないし、気を遣う必要もない。
しかし、毒を食事に盛りみんなを皆殺しにして瑠璃を自分だけのものにしたい。と修二はさらっと言ってのけた。
そのときはそんな修二の事を怖いとか思わなかったのだ。
もっと気を付けなくてはいけなかったのだが。(ああ、ヤンデレってやつね。)って嶺は思った。ヤンデレだのNTRだの忙しいなと。
そのときは聖也に対する嫉妬でいっぱいで嶺も他のみんなも修二の言葉を気にかけている余裕はなくスルーしてしまっていた。
「おいおい、それヤンデレってやつじゃねえのか?勘弁してくれよ。」
と龍の言うのがどこか遠くに聞こえていた。
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