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29話 冷泉 太刀人の気持ち

何なのだろう。

この胸のざわざわした感じは、


あの瑠璃とかいう女のせいだというのは分かっている。

が何で俺がこんなにざわざわしなくてはならないのかが分からない。


聖也が連れてきた女。

何やら修二がわあわあ騒いでいたと思ったら

どうやら異世界から来た女だったらしく、元の世界に戻ってしまった。

と思ったらまた、来た、

行っては戻ってくる。

忙しい女だ。

あっち行ったりこっち来たり

なんて落ちつかない女なんだと思ってはいたが。


いつもいつも聖也が横にいる。

だから話をしたいと思っても話かける事もままならなかった。

って何を言っているんだ。俺は。

話かけたいと思っていたのか?


初めて見た時はピアノの前で曲に歌詞を付けていて、その歌詞が素晴らしかった。


あっという間にミリオン。

俺もみんなも驚いた。


のだが、

聖也が元の世界にあっさり帰してしまった。

何でもホームシックみたいな何かだったのか精神を病んだらしい。

しかし。いつも付いているというのに女に精神を病ませるとは聖也も器が小さい男だ、ダメだなこいつと、俺ならそうはさせんと、思ってみていたのだが。


って、

俺はそんな事を思っていたのか。

聖也ではなく俺が女の隣にいてあげたらそうはならんと思っていた?と。


そしてまた何やらこっちの世界に引っ張って来たらしいが。


今度は元の世界の輪廻転生の輪にバグがあって、前世の記憶が消えず積み重なって魂に損傷が起き、壊れて消滅しかかっていると?


何で壊れるまで放置しておいたのだ。


俺は聖也に掴みかかりたいくらいの怒りを感じた。

そのくらい以前見かけたときと様子が違っていたからだ。


しかも魂を救う治療法が、

我が冷泉家の蔵にあると。


俺は実家の蔵に行き古文書を見つけた。

仕事をいくつかキャンセルせねばならなかった。

が魂一つかかっているのだから仕方ない。


とはいえ俺が仕事をキャンセルした事など今まで一度もなかった事なのだ。


状況はひっ迫していた。


が何故俺が


他人の連れてきた女を、

大事な仕事を、投げ出してまで助けなくてはならんのだ。


という疑問と言い知れぬイライラがつのった。


おじいさまに言われていた俺のスキルの事。

「お前のスキルは未来にお前にしか助けられない、かぐやが現れる。かぐやとは別世界から来る姫の事。

かぐやを助けるときが来たら何を置いてもそれを優先するのだ。それがお前が生まれてきて生きる意味なのだ。お前にしか出来ない尊い使命なのだから、他のものにあるスキルとは大違いの我が冷泉家のものにしかない素晴らしいスキルなのだ。くれぐれもこの言葉を忘れぬようにな。」


俺のスキルはいつか来る異世界からの姫を救う為だけにあるらしいが、スキル発動の条件や、方法は聞いていなかった。

大体、みんなが持つ便利そうで実用性のあるスキルと比べて、そもそも帝のスキルなんかめちゃくちゃ便利なスキルだし、俺のは全く普段役に立ちもしない、死にスキルだと思っていたので、実際に使用する機会もなく、調べもしていなかった。何お伽話みたいな事を言っているのだ。古臭い封建的な家柄にぴったりなスキルと、馬鹿馬鹿しい話なのだと心の中で嘲笑っていた。だから名家だの財閥だの言うのはめんどくさくて嫌なのだ。しかも嫡男だからとか何とか、不老不死の世界で嫡男

も何もなかろう。そんなものに縛られてこの先ずっと生きていくのかと思うと気が狂いそうになる。

役に立ちそうもないスキル。そして煩わしい家柄。

そして俺に与えられているらしい使命。

そして、あの瑠璃という異世界から来た女、あの女が俺が救うべき、おじいさまの話していたかぐやなのだろう。

異世界から人が来る事自体今まであまりなかったような気がする。それでいくと瑠璃がかぐやなのだろう。


俺が助けなくてはならない魂。


それが、あの瑠璃という女、という事になるらしい。

蔵の中から探し出した古文書。

そこには、スキル発動の条件がいくつか書いてあった。

満月の夜、月の光を浴びながら、行為をすること。

何だと。これは!

青姦。か?

青姦をしろと、俺に青姦をしろとそういう事なのだろうか。


青姦など、人目に付いたら犯罪ではないか。

そもそも犯罪であるし、俺はアイドルなんだから、そんなもの、人に見られたらまずいのは言うまでもない。


しかし、古文書には満月の夜の月の光に当たるのが発動条件であるとしっかりと書いてあるのだ。


そのとき、俺の頭の上にまるで漫画の一コマのように、電球がピカッと光り、ピンポン!っという音が鳴り響いた。


脳裏に浮かんだのは

我が冷泉家の別荘、月光亭のこと。


なるほど、あの別荘、名も月光亭と付いている事からお月見宴に利用されてきたが、本来の用途はこれだったのか。


あそこなら、付近一帯の山は我が冷泉家の所有。他のものが立ち入ることは無い。

それに、ふらふらと入山すれば遭難してしまうほどの山道だ。


あそこなら、人目も気にならない。

使用人には早めに暇を出しておけばよい。

二人きりなら行為に及んで多少の青姦っぽさがあっても、何といっても非常事態という事もある。あの女も文句は言えぬはずだ。


まるきり外というわけにも行かないだろうが、あそこなら、部屋付きの温泉もあるし、縁側にて行えば月の光を浴びて行為を行う事が出来るだろう。


光が届かなければ露天風呂の淵ででも何とかなるか。


それならば、他のものに予定を入れられぬうちに抑えておかねば。

俺が使うから使用するなという連絡を。


あと、そうだな。折角だから、何か食材を調達して料理でもふるまってやるとするか。


そうして、俺の瑠璃に対する攻略の手伝いは始まったのだが。


無事終えた今も何かとても心がざわざわして落ち着かないのだ。

胸の奥がざわざわしている。


そう、俺は、

あの女

俺が救ってやった瑠璃が

あっさりと聖也の元に帰っていったのが

気に入らないのだ。


そして

それを自分で認めたくない。

そんな感情は俺に必要ないのだから。


でもどうしても、俺は

思ってしまう。


俺がスキルを使わなければ

瑠璃は

あの女の魂はいずれ、壊れて消滅していたはず。

俺が助けたのだ。


だから、無くなるはずだった魂なのだから

俺のものになってくれてもいいのではないか。

と。


思っているのだ。

それが道理が通らないわがままで理不尽な要望だという事は分かっている。

例えば、交通事故でひき殺されそうになっていたものを助けたからと言って、

俺に命を差し出せ、付き合え、俺の女になれなどというものはいないだろう。


海で溺れそうになったものを助けたからと俺の女になれというものもいないはずだ。

自死を望む女を助けて、どうせ死ぬつもりだったのだから俺の女になれと言うのも理不尽というものだ。到底許されることではない。どう考えてもおかしな考えなのだ。

ここは不老不死の世界だから例えが生死の境がある世界でのことになぞらえて話すが、俺が思っている事はそういう事なのだ。


分かっている。

分かっているのだ。


が、この欲望を抑えることが出来ない。

瑠璃が欲しい。

俺のものにしたい。

もう一度この手に抱きたい。

もう一度抱くのは出来るのだ。

他の前世記憶をまたスキルを使って消去してやらねばならない。満月の夜にまた抱ける。それは確約済みの権利、そして俺に課せられた義務だ。

が、それとは別に欲しいのだ。

二人きりの時間が欲しい。

この手に抱きたい。

今すぐにでも抱きたい。

そして俺の事だけを見て欲しい。

俺だけを好いて欲しい。


そう思うと

俺は胸がざわざわして、

そして何で俺があんな女一人にここまで心乱されなくてはならないのかが分からない。

それがもやもやと心の中に煙のような形なくずっと居座りそして、どんどんと広がっていく。

俺の思考を気が付くとそればかり考えるように薄っすらとしかし、確かに隅々まで広がって俺の心の中を支配していくのを感じた。

最初は小さい煙が次第にもくもくと燃え盛る炎のようになっていくのを俺は止めることが出来なかった。




♪空に虹のリボンをかけよう




雨が降る日だって


風が強くて飛ばされてしまいそうな日だって




強く


強く




生きて


笑って




そしたら




空に虹のリボンをかけよう




できるよ




君にも




僕たちは




いつも




そばにいるから♪



これがあいつの書いた俺たちにくれた曲の歌詞。


この歌詞を見たとき、俺は心が震えた。

正直俺は冷泉家の嫡男としての事も

アイドル活動についても


疲れていた。

このさきずっと同じことをずっとやっていけるのか、逃げ場がないこの世界でやっていけるのか

と。


しかしこの歌詞を見たとき

本当に心に虹が出たような気がした。


曲の雰囲気にも

音数も合っていたのもあるがすぐに採用され

発表して

ミリオンになった。


この世界、

皆疲れている。

生きている事に。

死ぬという逃げ道も救いもない。



だからこの世界で一番重要視されるのがエンターテインメントである。

人の心に強く訴えかける希望の光。


それが俺たちがしているアイドルの仕事の存在の意味。


そして瑠璃の歌詞はそれを見事に表現した。


俺は恥ずかしいが正直この歌詞を見て泣いたのだ。

俺にかぐやがやってきて

そして俺を救ってくれた。

これは運命だと

そう思ったのだ。


しかしミリオンヒットをはじき出して

俺の心を鷲掴みしたこの天才作詞家は


元世界に戻ってしまった。


聖也が返してしまったから。元の世界に。


折角の才能があるのに、

俺が消さなくてはならない彼女の前世記憶にはその才能を活かすことが出来たものは存在しなかった。

あるいは、記憶が消去された遠い昔の前世なら活かせたときもあったのかもしれないが。


聖也が元の世界に返したことは結果的に良くなかったのではないかと俺は思った。

そして、そんないい加減な事をしている聖也と、覚悟もなくこの世界に召喚されては、また元の世界に戻ることを望み帰って行く女のことを

どうしてもいい気持ちで見ることは出来なかった。


あの月光亭での一夜のまぐわいが俺に


俺の気持ちに気付かせてくれたのだ。


俺は彼女を欲している。

あの歌詞を見たときからずっとだ。

歌っているとき

いつも彼女の事を考えていた。

もう元の世界に戻ってしまって会う事の出来ないかぐや姫を俺はずっと心のどこかで諦めきれず待っていたのだ。


俺にしか出来ない瑠璃の魂を救う行為。

俺にしかないスキル。

そしてずっと昔から伝わるかぐやの言い伝え。


俺が冷泉家の人間で良かったと思ったのは正直初めてだった。

そして、どうして俺が冷泉家の人間として生まれたのかを悟った。


俺はかぐや、そう瑠璃と出会うためだけに

生まれて来たのだ。

俺だけの為に存在する姫。プリンセルかぐや。

かぐや姫。それは瑠璃。

これは運命だ。

運命の赤い糸が俺と瑠璃を繋ぐ。

こうして異世界からこの世界に来たのも、出会ったのも、そして救えるスキルを持つのが俺だけだという事も


すべて運命なのだと。

彼女こそ、my destinyなのだ。

その気持ちを伝えることもできないまま

俺は

聖也に瑠璃を渡した。

渡したわけではないが、ドキLOVE城に戻ってきて

自室に戻った彼女の部屋に聖也が訪れるのを見た俺は

どうしようもない無力感と

焦燥感に襲われて


嫉妬という心の闇を知った。


そして眠れない懸想する日々が続く。

今日も俺は瑠璃を思って懸想して

眠れない。


次の満月までに俺の心を伝えることが出来るだろうか。

そしてその気持ちを瑠璃が受け止めてくれるのだろうか。


拒絶されたら

と思うと怖くて


でも聖也から奪い取りたい。

自分だけのものにしたい。

俺だけを見ていて欲しい。


そう思ってしまうのはいけない事なのだろうか。

運命の恋人、瑠璃を

聖也から奪いたい。

この手に抱きしめたい。


確かに瑠璃をこの世界に召喚したのも、転生させたのも

聖也だ。


でも召喚士だからと言って彼は召喚するための道具に過ぎないのでは?

運命で繋がれているのは俺なのでは?

瑠璃は俺のものなのでは?



そう思う事でしか

俺の心は満たされない。


聖也が彼氏面をしていつも瑠璃の傍にいる事、瑠璃が聖也に明らかに頼っているような信頼しているような様子が


今の俺には我慢できない。


だが、この状況をどう打開したらいいのかは

分からなかった。


まだ攻略は始まったばかりだ。

他の攻略対象の事もある。


状況を見据えて的確な判断が必要だろう。


しかし、冷静でいようと思えば思うほど、

思いは募る。


今夜も俺は瑠璃を懸想しながら眠りに落ちる。


イライラとした焦燥感と共に。


ドキLOVE城という同じ建物の中にいるというのに。

部屋を訪ねるという事もせずに、

ただ、悶々と日々が過ぎていくのを俺はどうすることもできなかった。














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