18話 ログアウトボタンを探して
不老不死。誰もが憧れ熱望する、探し求めてきた人類の希望。
数多くの研究者が一度は研究してみたいと思う課題のようなもの。
それが現実に実現している世界があった、
それがこの乙女ゲーム『王子様LOVEキュンレコード』の世界。
一度このゲームの世界にログインしてこの世界の住人になり、そしてまた元の世界に戻され、寿命を全うして再びこの世界にやってくることが出来た。
会いたかった人にも再開できて愛を確かめ合った。
そしてこの乙女ゲーム『王子様LOVEキュンレコード』の世界の住人として不老不死を生きる。
輪廻転生の輪から外れて。
こう聞くととても理想的な幸せなことのように思える。
けど、彼らの忠告のように
私の魂に疲れが見えてきた。
死なないという事。
歳を取ることも病気になることもない。
だから苦しみながら生き長らえるようなそんな残酷なことはないのだけれど。
驚くほど退屈してきてしまったのだ。
好きな人といて、好きなことをするだけの生活が延々と続く。
考えてみたらとても欲張りで幸せな事なのに。
そして、私は死なないいう事がいかに恐怖化を永遠に続くという事がいかに怖いかということを薄々であるが感じ始めていた。
考えまいとしても考えてしまう。
これは一度その立場にならないと絶対に分からない種類の恐怖だった。
考えまいとしても
考えてしまう。
本当は
輪廻転生の輪の中で何回も転生して新しい人生を歩むはずだったという事を。
これは私には想像もつかないことだった。
だって幸せなのに。
それを失って他の人生を
この魂は求めているのだ。
もう帰れないって言ってたしな。
仕方ない事なんだけど、もう少しきちんと考えてから答えを出したかった。
かもしれない。
70年待っていてくれたと聞いて
私は感激して
つい
分かっていたのに
契りを持ってしまった。
今となっては70年が一瞬であるということが痛いほど分かる。
なんで?なんで騙すようなこと。
大好きで愛しているはずの聖也の事をちょっとだけ恨みがましい気持ちで見てしまう自分がいた。
騙したわけではなく事実を述べただけだと言われたらそうなんだけど
でも70年の重みが元の世界とこちらでは明らかに違うのだ。
あまりにも時間の価値観が違うから。
私が勝手に感激して勘違いして
嬉しくて愛を感じて
身体の契りをもってしまったのが
一番悪いんだけど
その代償が大きすぎる。
大丈夫ってみんなにも言ったし
ずっと一緒にいるって宣言したけど
今となっては辛い。
そして
私は
どこからともなく
噂で流れてきた
ログアウトボタンの噂に心を奪われていた。
【この世界には、どこかにログアウトボタンがあって、それは不定期に出現する。場所も時間も決まってはいない。けど必ずどこかにあってそのログアウトボタンを押すと
元の世界に戻ることができる。
元の世界が輪廻転生の輪のある世界であるなら輪廻転生の輪の元に
戻ることができる。
ログアウトボタンを押せばこの世界から抜け出し元の世界に戻ることができるのである。】
ログアウトボタン、元の世界に居てゲームをするとき何回もお世話になったボタンである。
他のゲームにログインしたいときはログインしたままではできないから必ずログアウトボタンを押してログアウトしなくてはならなかった。
ログアウトボタンというのはどのゲームにも必ずある。
言い換えればログアウト出来ないゲームなど存在しないのだ。
なぜ気付かなかったんだろう。
ゲームのプレイヤーであるというのに。
ログアウトボタンの存在を。
プレイヤーでなく攻略キャラである彼らがログアウトボタンのことを知らなくても不思議ではない。
だからもうこの世界から抜け出すことが出来なくなったと私に告げたのは間違いではないのだろう。嘘をついたという事でもないと思う。
彼らなりに心配して教えてくれたのだ。
けど、ゲームをプレイしていた私はログアウトしようと思えばできるはずだという事に気付くべきだったのだ。絶望する前に。
どこかに必ずあり不定期に出現するというログアウトボタンの存在に。
気付くと私は渇望していた。
ログアウトボタン。
そのボタンを押して輪廻転生の輪の中に戻りたいと。
いつしか私は目で見えないログアウトボタンが出現していないかを探し、落ち着かなくきょろきょろを辺りを見回し、街を歩き回ったり、部屋にいる時もふとした瞬間に現れるかもしてないログアウトボタンを見逃さないようにと緊張していた。
馬鹿馬鹿しかったが、単なる噂であるし、本当にあるかどうかも分からない。
でもどこかにあるとしか思えなかった。
一縷の望みが希望が見えたのに絶望の二文字が浮かび上がったら人は壊れてしまう。
と思うから。
この世界に監禁されているのも同じ。
出ていくことが出来ないのだとすれば監禁されているという事。
そして監禁されているとなると
出ていきたいと人は思うものだ。
手に入らないものを人は求めるのだから。




