02
目を開ければアストロの顔が目の前にあった。
……なんだ。近いな。
目が覚めたのなら早く出ていけばいいものを。
「グランティエ、また世話になったみたいで悪いな」
今日は余裕の表情じゃないか。
ぼんやりとした頭で目の前の男の顔を観察してみる。妙に近い気がするのはやはり気のせいではなさそうだ。
私は朝には強いほうだ。覚醒は早い。
だがやはり布団にくるまれている時間は至福でもある。もう少しここにいたいのも本音だ。
目の前の男がいなければいつも通り気持ちよく起き上がっているところだが。
「……私の家の前で力尽きるのはやめてもらえないか」
とりあえず伝えるべきはこれだ。
この家は私の唯一の落ち着く場所なのだから他人はあまり入れたくはない。
「悪いとは思ってるが、俺も記憶がない。気づいたらここにいた」
「……まあ、いいが。起きたなら早く出て行ってくれ。その様子なら二日酔いも大丈夫だろう」
二日酔いのための食事はいらなそうだ。
元気なようだしこのまま騎士団の寄宿舎まで帰れるだろう。
さて、今日の朝食は何を食べるか。
食材を浮かべながらメニューを考え始めれば、アストロが急に「うっ」とうめき声をあげて蹲った。
なんなんだ、そのわざとらしい演技は。舐めているのか。
下手すぎるだろう。そこらの子供のほうが上手い芝居をするぞ。
ジト目で見つめるしかない私をアストロが上目遣いで見上げてくる。
いかつい風体の男がそんなことをしても全く可愛くないな。不自然だ。
「すごく二日酔いだ。また朝食を食べたい。食べると治るんだ」
「……ふざけているのか」
どう見ても下手な演技だぞ。
「あの時の朝食の味が忘れられない」
下手な演技をするくらいならば始めからそう言えばいいものを。
仕方ないからな、私の料理を食べさせて早く帰ってもらおう。
私はやれやれとため息をついてソファから立ち上がった。
ぐっと伸びをすれば関節が悲鳴をあげる。
やはり柔らかいベッドで寝るのが一番だな。ソファでは少しばかり負担がかかる。
「座っていろ」
二日酔いに配慮する必要はなさそうだからな。私の好きなものを食べよう。
アストロは嬉々としてテーブルの前に腰を下ろした。
もしかしなくとも最初の拾い物は失敗だったな。捨ておくべきだったかもしれない。
仮にも野営訓練や任務中の野宿を経験している騎士だ。一晩くらい放っておいても問題はなかっただろう。
今更言っても遅いがな。
とりあえず朝食を作るとしよう。
あまり重くないものがいいな。卵も使って……。
頭で何を作るか決めながらキッチンに向かった。