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69、カナさん

「いや~、忘れられているかと思いました~」


 ぽんっと手を打ちながらカナさんは微笑んだ。


「それでは長いことトイレにはいけてなかったでしょうしまずはおトイレ」

「はい、お願いします」

「はいはい、お願いされます」


 地味に腹具合がそろそろ危険かなと思っていた具合だったので丁度よかった。

 保育士としての経験が豊富なのだろうか?

 体のリズムなど赤ちゃんの体が何を必要としているのか、この辺りがよくわかっているのかもしれない。

 自分では気づかないような前兆が出ているのにカナさんは気づいていたのかもしれない。


「外の音けっこう色々聞こえますね~」

「ますね」


 あまり音量が大きいと眠るに眠れない状況になると考えて、部屋の中央にいる時人が小声で話しかけるくらいの音量で聞こえるように調節したのだ。そこまでうるさいわけじゃない。


「トイレ上手だね~」

「うん」


 心底そういう風に思っているようにカナさんは言った。

 カナさんは何人も小さな子の面倒を見ていることだろう。

 その子たちと比較して感じているのかもしれない。


「ねぇねぇ。ちょこっと教えて?

 このお部屋って何が変わったの?」

「外からの音はよく入るけど中からの音は出ないようになりました」

「そ、そうなんだね~」


 カナさんは俺の頭を撫でながら表情を少しこわばらせて反応に困っている。

 ……いつの間に頭を撫でていたのだろう……。レベルが高い……。


「とりあえずリク君。遊びましょうか!」

「はい?」

「じっとしていたら元気に育たないぞ~!」


 神経の発達には運動が重要だから間違ってない話だ。

 でも何して遊ぶのだろう?


「じゃあ、今日は大きく声を出してみようか!」


 声はただの伝達手段ではない。

 声は情報の塊なのだ。

 声質だけでも年齢、性別、今の機嫌などがわかる。

 話し方によって、話す順番によっても、どこを強調したいのかなどその人の考え方がわかる。

 何を思って、何を伝えようとしているのか、その人の性別や年齢からある程度の背景事情を踏まえたり出来る。そして認識した情報からさらに話を推測できる。


 ここを自由にできるようになれば?

 駆け引きが上手くなるのだ。取引の幅が広がる。

 相手が何を求めるのか分かればより適した商品を取引の舞台に引き上げられる。

 適したモノを渡せる人は信用されるし、次の商品を持ち込んでも嫌な顔をされにくい。

 だから交渉力が高ければそれだけ選択の幅が広がる。


 それに声量の上限が上がれば小さい声にした時でもハキハキと聞こえる。

 声に慣れ親しむ程に技量は上がる。

 声の技量を捨てるのはもったいない。


 身体の操作技術を上げることはそこそこやっていたつもりだが、声の方はあまり手が付けられていない。

 頑張ってやらないとだ。


「それじゃ、声を出していこうか! A~!」

「A~!」

「いい声だね~! A~!」


 カナさんは声を張り上げていく。高らかに。どこまでも高い空へと響かせるような澄んだ声で。

 まるでオペラ歌手の様に朗々と響いていく。


「A~!」

「歌とか覚えてみる?」

「歌ですか?」

「うん、まずは聖歌とかどうかな?」


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